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1.繊維業界構造改革プランの生い立ち
「繊維業界構造改革プラン」は2001年、学生と社会人9人が集まり1年をかけて調査しまとめた提言です。この提言は多くの方のご協力とご助言をいただき完成しました。その間、様々な方と出会い、するどいご指摘ご批判もいただいたのですが、1年を通して我々が自問自答を繰り返してきたことは「なぜ、このようなことをするのか。この活動にどういう目的があるのか」ということでした。そもそも、このプロジェクトは、私自身が10年におよぶ繊維業界での経験に終止符をうち、他業界へ転職をしたことを契機に、私が経験したこの業界の問題点を体系的・構造的にまとめ、世に広く公開したいという思いからはじまりました。この業界にお勤めの方はご存じと思いますが、繊維・アパレル業界は日本の産業としては弱体化しており、生産者は中国をはじめとするアジア圏へ労働機会を奪われすでに壊滅状態になっており、流通構造は異常なまでに複雑化し、小売りの悪しき商慣習がまかり通り、消費者は世界で最も高い衣料品を買わされているという構造になっています。特に私は生産・流通側におりましたので、この業界の危機的状況を感じながら、企業人としてなにかできることはないのかという問題意識を常に持ち続け働いておりました。幸いにも私のいた会社では、当時では日本一といってもよいほどの環境に恵まれました。すばらしい課員の団結と若く優秀な人材、スーパーマンとも言えるリーダー(当時の課長)の事業戦略とリーダーシップのおかげで、こうした中でも増収増益を続け、業界では日本一の実績を誇り、机上の空論ではない貴重なサクセスの経験をすることができました。これが私の現在のコンサルタントとしての原点になっているわけですが、こうした境遇におられない多くの方達は早晩この業界に見切りをつけ、展望のない未来にむかって日常を過ごしているか、どんどんこの業界から去っているのが現状です。こうした業界を立て直すためには既存のエスタブリッシュメントにいくら期待しても無理であり、私は、次世代を担う若者以外にこの業界を立て直すことができないという結論に達しました。しかし、学生向けのアパレル業界の紹介本やテレビ・雑誌などの紹介を見ると、この業界の事実をあまりに歪曲して伝えているという現状があります。この結果、多くの若者はこの業界の表面的な華やかさにだまされて、非常に浅はかな動機でこの業界を志望しているというのが私の実感です。極端な言い方をすれば、「この業界は感性が重視され、論理的・数値的な発想は不要である」という言葉が拡大解釈され、「勉強しなくてもいけるカッコイイ業界」といわれ、就職を目の前にした学生の「逃げ道」にさえなり、優秀な若者はますますこの業界から去っています。しかし、私の経験からいえば、こうした業界でも論理的な思考力・戦略的発想はきわめて重要であり、この2つこそが私のいたセクションが7年連続の増収増益を果たした唯一の理由でした。こうした中、私はこの業界の本質的な問題を戦略的・体系的に整理し、従来とはまったく違った切り口から次世代を担う若者へのメッセージとして送ろうと考え、あえて繊維・アパレルの素人の学生を集めこの繊維業界構造改革プランをつくったのです。こうしたできた我々の政策はホームページを通して広く世の中に公開され、この提言に賛同した多くの方からたくさんのメッセージも頂きました。
2.繊維業界構造改革プランの内容
繊維業界構造改革プランは、一言で言うと、世界中のみんなで「共通のルールを作りましょう」というのがその基本骨子になっています。アパレル業界最大のワールドでさえ、業界全体の規模の数パーセントでしかないこの業界の最大の特徴は、夜空の星の数ほどある小企業群が群れをなして個人経営の弱小企業がスクラップアンドビルドを繰り返し、ひしめき合っているということです。また、生産から調達まではすでに80%がアジアに移転され、バリューチェーン全体の構成は他の業界には例を見ないほど複雑化、グローバル化が進んでいます。こうした産業構造の弊害としてシステム化が遅れ生産性が極端に悪いというのが最大の特徴なのです。さらに、ファッション商品という特殊性からプロセスを固定化するIT化が難しいという事情もあり、人件費の安い集約型労働産業の典型として途上国の戦略産業となりやすいという特徴ももっています。こうした中、人件費をはじめ社会資本コストが高い日本でこの産業全体を復興させるためには、従来の発想を180度転換しなければなりません。米国の効率型マスプロダクトでいくのか、ヨーロッパ型付加価値でいくのかという2者択一ではなく、まったく新しい発想、日本独自のポジショニングを明確にしなければならないと考えました。その結果私たちは、業界全体の統一ルールを日本主導で作れないかという発想に至ったのです。
3.業界最大の問題は非効率と無駄である
我々は多くの企業のインタビュー、そして自らの経験を通してこの業界の最大の問題は業界全体に蔓延する無駄であると考えました。それは、時間の無駄、金の無駄、人の無駄、商品の無駄であり、この無駄すべての総額は数千億にも及びます。我々は業界全体を通したネットワークの構築(いわゆるサプライチェーンの構築)が最重要課題であると認識しました。しかし、こうした試みはすでにいくつかなされており、ことごとくそれらは有効な効果を生み出せていません。それは、ひとえにこうした試みが各企業単位で行われているということが最大の原因であり、ファッション商品という特殊性から、単独の企業がバリューチェーン全体の最適化を果たせても、業界全体の復興にはつながらないわけです。バリューチェーンの最適化に唯一成功したあの無敵のユニクロでさえ、ファッションという流行には勝てず、最近では消費者に飽きられています。こうした中、業界(特に調達側)を横断した統一ルールの策定こそ、その後の企業間ネットワーク拡大のトリガーとなる可能性があると確信したのです。
4.日本の産業戦略として中国を内在化する
アジア、特に中国は全世界の衣料品の生産基地となっています。この中国の生産基地全体を日本という工場のアウトソース先とすることができれば、今までできなかったアパレルの世界進出も可能となり(現在日本から衣料品の輸出はほとんどゼロである)、かつ、世界市場の供給元のイニシアティブを取ることができます。すでに市場としては成熟している日本にこれ以上期待するのではなく、生産基地として今後世界に君臨する中国を内在化してしまうことこそ、日本の繊維産業戦略として有効であると我々は考えました。そして、日本はこのことができる可能性がもっとも高い国なのです。まず、中国は文化的な背景から西洋とのビジネスが苦手です。歴史的にも日本がこの中国と西洋の三国間貿易を構築してきたという事実があります。日本はアジアの中にある西洋として、西洋諸国の窓口になれるのです。かつ、日本は中国にとって米国に続いて、最重要市場です。その巨大な市場性を生かし、発言力を行使することは十分可能です。それには、現在日本が行っているアジア向け特恵関税の仕組みを導入し、日本発の統一コードを使用した中国の工場に対して輸入上の優遇関税を適応することができれば、この米国に次ぐ巨大市場を目指して中国の工場は一斉に日本発の統一コードを使用することになるでしょう。こうした統一コードは母体が広がれば広がるほどその効果は大きくなります。やがては欧米向けの工場までもこの統一コードとルールを使用することになり、日本発の統一ルールは世界を巻き込むでしょう。そうしたとき、先行者利益として、従来とは全く違った産業であるIT産業、物流産業などは世界進出を果たし、かつ、日本の技術力のある弱小企業はこのコードを利用して世界に繊維製品を輸出することが可能になります。繊維業界構造改革に必要なのは、日本発のブランドでもデザイナーの育成でも米国の真似をしたサプライチェーンの構築でもなく、世界市場で戦える日本独自の戦略です。日本の繊維・アパレル産業は欧米の模倣を続け今日まで生きながらえてきました。しかし、市場が世界に解放され、グローバル化が進んだとき、模倣戦略(ミートゥー戦略)では市場から撤退を余儀なくされるでしょう。日本の繊維製品の生産技術・加工技術は世界一ですが、政府の既得権者保護政策のため、こうした中小企業はどんどん倒産し、日本の伝統的な技術力はどんどん失われています。ぜひ、こうした世界に誇る技術力を、無目的な金の注入という形ではなく、自力で世界市場に進出できる機会をつくって上げてもらいたいと思います。
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