2002年12月28日掲載
繊維業界における商社の三極化構造

商社の繊維ビジネスに異変が起きている。従来型のOEMビジネスはもはや限界に近づき、どの商社もこのビジネスに未来がないと感じている。これにはいろいろな要因があるが、まず第一に、日本には、商社としてまともに売れるアパレル企業がほとんどないということが上げられる。業界では大手優良アパレルを5大アパレルと呼んでいるが、それ以外のアパレルはすでに弱体化し、商社ビジネスを支えるほどの販売力はもっておらず、商社としてもビジネスの単位にならない。また、最近元気のよい渋谷の109ブランドと呼ばれる世界も、まさに新興勢力であるために、与信リスク、独特の商慣習など、従来の常識が通用しない取引がまかり通っているために、商社は手をだせないでいる。すなわち、日本中の繊維産業が5社の仕事を奪い合い、過激なサバイバル競争を繰り広げているわけだ。こうした状況に付け加え、昨今のデフレの波がアパレル業界をおそい、商社の利益率はすでに限界に達している。これに、容赦ない企業倒産が相次ぎ、決済機能を内在化した日本の商社はその打撃をもろに食らっている。商社が潰れるのは在庫と与信リスクからだというのは、繊維業界につとめる人間であれば誰でも知っている言葉である。その意味で、繊維業界はきわめて高リスクで低リターンなビジネスになっているのである。こうした中、商社はすでに日本の市場に見切りをつけて、海外市場に対して活路を見いだそうとしているわけだが、ほとんどのケースがうまくいっていない。まずアメリカだが、この国の人間に日本の「商社機能」を理解してくれる人はまずいない。歴史的に日本の商社は、とくに川上にいくほど付加価値のない「通し商売」を行ってきた。こういう背景からアメリカ人に商社機能を説明しても「なぜお前を使う必要があるのか?」と問われるわけだ。次に、ヨーロッパであるが、この国の市場に日本の商社が介在できるほどヨーロッパのファッションビジネスは甘くない。特に、日本のアパレル製品はヨーロッパブランドの真似ばかりであり、素材に至ってはヨーロッパがそもそも本場であるため、よほどの付加価値とブランドアイデンティティーがなければヨーロッパでは成功し得ないのである。その意味で、ユニクロがまずヨーロッパに進出したというのは、ヨーロッパにてアパレルの最も大事なブランドアイデンティティーを確立すれば、その後の米国、アジア進出への大きなステップになると考えたからであろう。最後は中国であるが、この国はこれから期待はもてるものの、まだどの商社もお互いに出方をうかがっているということであろう。今後の期待は、中国を中心としたアジア市場の開拓がポイントになるはずだ。未だに米国に過剰な幻想を抱いている商社は、従来の原料ビジネスの発想から抜け切れていないと言わざるを得ない。

 こうした中、商社はこれから三極化していくことになるであろう。まず、OEMで言うならば、三井・三菱などが行っている、システムも含めた会社ごと丸抱えしてしまう大胆な戦略である。彼らは、専用システムを大手アパレルとつなぎ、他の商社の参入を事実上不可能にし、アパレルの発注がすべて彼ら自身の口座を通るような仕組みを作り上げている。苦労してビジネスを作り上げた営業マンが、さあ売上伝票を入れさせてくれと頼んだところ、「すいませんが、三井物産に売ってください」と頼まれがっくりするという話は至る所で聞かれる。つまり労なくして利幅のとれるビジネスを作り上げたわけである。こうした大企業同士の市場独占囲い込み戦略に対抗するためには、巨大な資本力と政治力が必要であり、事実上このセグメントは大手財閥商社に固定化されている。こうしたことができない商社は、第二の柱として自社開発のブランドを打ち立てている。冒頭に申し上げたとおり、OEMビジネスはデフレ構造に陥っており、このビジネスに手を出す限り、財閥系商社に上前をはねられるか、薄口銭で体力をすり減らすかのどちらしか選択肢はない。これを打開する方法として、自社ブランドを開発し、販売網を独占する動きを見せている頼もしい商社もでてきている。自社ブランドであれば、自ら流通チャネルと価格をコントロールできるからだ。しかし、こうしたブランド開発には総合力が必要であり、名ばかりの「総合商社」ではとうてできない芸当である。ブランド開発は、ファッション研究所、他事業部との連携、広報活動など、総合力が必要となる。なにより、こうした社内ベンチャーを育成するカルチャーや制度が企業内になければ、新しいクリエーションなどできないであろう。商社の組織は硬直化しており、新しい発想やチャレンジが生まれにくくなっているのだ。こうした中、ブランド開発さえできない商社は、撤退か専門化の道を歩むことになる。専門化というのは、「究極の便利屋」になるということだ。アパレルの仕事はとにかく忙しくて細かい作業の積み重ねである。従って、日本のアパレルでまともに生産と調達を行っているところはファーストリテーリング社以外に無く、ほとんどのアパレルが生産と調達を商社任せにしている。ここから商社OEM戦国時代が始まったわけだが、こうした下克上の世界で生き残るためには、組織をスリムにして、固定費を減らし、細かく大変な仕事を一気通関で請け負いますというアプローチが有効なのである。すなわち、どのような依頼でもうちに任せれば安い値段で素早く対応しますということをひたすらアパレルに売り込むわけである。したがって、中堅商社、繊維専門商社と呼ばれる企業は、分社化とリストラを繰り返し、社員の多くを専門性をもったプロフェッショナルな契約社員に鞍替えしはじめている。こうした硬直化した状況の中、この業界の未来図は、一部の有力アパレルとがっちり組んだ財閥系商社と自社開発ブランドで市場に新しい風を流し込むベンチャースピリットをもった商社、そして、究極の下請けをしながら、時には大手商社の下請けも辞さない専門商社に別れていくことになるだろう。付け加えるならば、どこも成功していない海外販売に成功した新興商社が現れれば、こうした業界の地図は変わるかもしれない。それ以外に、この業界の硬直化した構造を打開する策はあり得ないのである。それでは、最後に日本の市場を捨て、海外に活路を見いだしている商社はいかにすればよいのだろうか。まずは、自らのビジネスモデルを見直すことである。もはやグローバルな企業とつきあうためには、従来の「ショバ代」に名を借りた関連子会社集団による口銭の奪い合いという発想は捨てた方がよい。価値のない会社はバリューチェーンから撤退してもらい、発想を転換して、たとえば海外子会社の経費を本社経費にするとか、海外子会社の役割と機能を明確にすることが大事である。こうした商社本来のネットワーク機能を外国人が見てもはっきりと理解できる形に仕立て直すことが大事であろう。また、海外での強力な販売力を得るためには、既存の販路に期待をしてもよほどの高付加価値を見せられなければ新規参入は難しい。商社の総合力を発揮して、既存のプレーヤーを組み替えたり、離れているプレーヤーをつなげたり、あくまでも、最初から販路をつくるのではなく、また、既存の販路に参入するのでもなく、既存のモノや組織を「組み替える」ことで新しいチャネルをつくるという発想が大事であると考える。商社というものは歴史的に、こうした組み替えと組み合わせで業界の構造を変えてきたのである。商社は「何でもできます」というのを売り物にしてきたが、海外ではそれは「何もできない」と同意語である。これがメリットであるというものをとにかく具体的に見える形で見せることが大事である。それは、すなわち従来の「通し商売」の否定であり、自らの否定にもつながるわけだが、その自己否定の中からSHOSHAビジネスがグローバルスタンダードに持ち上がるのである。海外市場を日本OEMビジネスの延長という発想で取り組んでも海外では通用しないであろう。