11月14日に行われたマルゾットグループとの会談の記録です



同じ論点が何度も循環することもあったと思います。というわけで、会談の時系列に沿って書くのではなく、出てきた論点を自分なりにまとめて会談全体を俯瞰できるようにしたつもりです。

大きな論点は以下の3点です。1.と 2.で話の内容はカバーしますが、3で太田が気になった点を付加しておきます。

1. データの妥当性・説得力

この項目に関してのマルゾット氏の主張は以下3点に集約できると思われます。
A. 経済産業省(METI)の主要都市のアパレル商品値段を比較したデータは説得力が弱い。
B. 日本のマーケットが5社に独占(dominated)されているという主張は弱い。
C. 日本のマーケットは保護されていると言う主張は弱い。

A. 
METIの資料を使ったFRIの主張は、日本の服は高いと言うものです。マルゾット氏は値段比較のデータの妥当性を直接批判はしていません。むしろ店舗のとる高いマージンを具体的に指摘して、高い値段の仕組みの一端を指摘してくれたくらいです。しかし、代わりに日本の消費者には広範囲な値段のチョイスがある、という主張を展開していました。高くても満足できる価格帯の商品のチョイスがあるはずだ、ということでしょう。

店舗のマージンに関しては、イタリアでは2.3掛け (* 下記参照) であるのに対し、日本では「最低」3.6掛けある。この流通(distribution)の仕組みは小売価格を押し上げているとして、批判的でした。このあたりの具体的な数値は、河合さん、西田さん、マルゾット氏は詳しいようでさらりと流していたようでしたが、小売の分析として重要な気がします。(数値はあってますよね、河合さん?)。一方でマルゾット氏は、中国から日本への繊維・アパレル製品の輸入での関税率は低いと認識しているようです。ですから、関税率が低いのに小売価格が高いのは流通に原因がある。店舗の高いマージンはその一例だ。(具体的には触れていませんが、彼は中間業者としての商社に対しても批判的でした。) 論理的に敷衍して考えれば、日本の正当な小売価格は低いはずというものです。この点はFRIの主張と共通ですね。


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(*)
「マージン掛け率 2.3掛け。即ち、100の仕入れであれば、上代は 100 x 2.3 = 230 です。イタリアのみならずヨーロッパではこれが主流です」(西村さん(Gene Y. Nishimura): e-mail: Subject: Re:【fri-2000】11月14日マルゾット・グループとの会談の記録Date: 2001年11月26日 16:49)。
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しかし、METIのデータの説得力に関しては批判的でした。理由としては、またこちら側の論理的敷衍を要求しますが、日本の消費者には広範囲な値段のチョイスがあるというものです。 彼の主張を論理的に解釈してみると、統計手法として平均値をとっても、日本の消費者がより安いものを手に入れて満足できる可能性を否定できないと言うものでしょう。またこのデータの発表が1999年であり、ユニクロショック以前に調査が行われたであろう事を気にしている様子でもありました。つまり、2001年現在は日本の消費者には当時よりも多くの値段のチョイスがあるはずだ、ということです。この点に関して、河合さんが海外のショップに押し寄せる日本の消費者の例を出し、彼らが日本の商品に関して値ごろ感を抱いていないことを指摘しました。が、これもデータがあるべきところかもしれません。

いずれにしても、ここでのマルゾット氏の指摘は意味のあるものだと思います。第一に日本の服は高いという主張をMETIのデータだけでサポートするには説得力に欠ける、という指摘は重要でしょう。さらに根本的かもしれませんが、METIのデータの統計的な意味についても注意を向ける必要があるのかもしれません。

B.
日本の小売が5社に独占されていると言う主張の妥当性は泉さんも指摘されていましたが、マルゾット氏も問題視していました。反証がすぐに見つかるように思われるからです。例えば、プラダ、LV、エルメス、ベネトン、GAPなどの国際アパレル企業たちです。

この点に関して、FRIは二つ主張があります。一つは、百貨店の中にあるブランドの80%が5社のもの、というものです。が、それだけでは説得性に欠くようでした。今後、売上げや利益のデータなどより掘り下げて検証する必要があるように思われます。

もう一つは、上に挙げた巨大企業は「違う」というものです。これらはFRIの目指す政策提言・ビジネスプランにおいては対象外として考えることができる、という主張です。が、これに関してはどこがどう違うのか、マルゾット氏に対しては主張を投げるだけで終わってしまいましたね。「小売は5社の独占」という主張をもっと洗練させる必要を痛感することになったと思います。


C.
日本の小売は閉鎖的(closed)で守られているという主張に関しても説得力を持って議論するのが難しいようです。ここは河合さんが絶対的な自信を持ってマルゾット氏と対峙していました。が、主張が妥当だとしてもうまく伝えることは難しいようですね。第一に、大店法というドメスティックな法制度を理解してもらうことが難しかったようです。また、関税率に関しても認識の差があったようですね。第三としては、関税手続きの複雑さですが、これは他国と比較してはじめて妥当性が出るのだとも思いました。これは冗談なのか真実なのか、日本の税関は24時間かかるよといったところ、イタリアでは2週間かかると聞こえたような気がしたんですが・・・このあたり、皆さんの笑い声に包まれて正確に把握できませんでした。河合さんのフォローがいただけると助かりますが・・・

以上がFRIのデータの妥当性・説得力に関する議論です。データは精緻ならよいというものではなく、全体の主張や相手、目的によって選ぶ必要はあると思います。というわけで、ここで汲み取れる含意は、マルゾット氏の指摘を参考にしつつ、データはこちらの主張と絡めて洗練させていく必要があると言うことでしょう。

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2. 今回のプレゼンにより、マルゾット氏の考えるファッション・アパレルインダストリーの一端を知ることができたと思います。ここはかなりFRIの考えとも近いものでした。ただ、自分でビジネスを経営しているだけあってFRI側よりも視点は具体的でしたが、すこしプロダクト・アウト的だったようにも見ることができますね。

ポイントは以下の3点だと思われます。
A. 現代ファッション・アパレル・インダストリーの俯瞰図とマルゾットグループについて
B. マルゾット氏の考えるイタリア・アパレル・インダストリーの成功要因。
C. 完全自由貿易が理想だとしても、それを具体的に実現する際の問題点。
D. エコロジーをファッション商品化するための問題点。

A. 
マルゾット氏のアパレルインダストリーの全体像認識は、ナショナルだけでなくグローバルな視点を持っており、きわめてFRIの考えに近いものであったと思われます。イタリアにしても労働コストの上昇から、生産部門を維持していくコストが高くなった。これは世界的傾向であり、しかもあらゆる産業分野でおこっているため避けられるものではない。イタリアもサービスインダストリー中心へと転換していく必要がある。

サイクルのますます早くなったアパレルインダストリーにおいて、企業はいかにフレキシブルに対応できるかが致命的に重要だ。しかし、マルゾットグループのように内部に生産部門(実際は独立した企業体)を抱えていると、どうしてもコストがかかり、動きが鈍くなるのが現実。

さらに、アパレルインダストリーの付加価値の最大の源泉は、消費者に最も近い小売にある。例えば、価値を100とすれば、80は小売。10はspinnersなどの材料生産。最後の10は工場(ここは意味的に縫製と取れますが、数値は厳密でなく主張に支障はないですね)。

また、ファッション(fashion)と生産(industry, industrial)との差異をとても強調していました。生産は基本的に、クリエイティブな要素はなく、時間や最適地生産、生産量の管理などの部分で成功がきまる。もう一方でファッションは顧客のニーズを以下に汲み取り、いい思いを経験させるかのクリエイティブな部分で成功が決まる。このような認識を持っているようです。

この論点に沿って太田は、マルゾットグループは生産部門を切り離すつもりかと尋ねました。縮小はする可能性はあるが、なくならせはしないとのこと。話題が転換し、理由に関して分析的な質問ができなかったのがくやまれますが、マルゾットの歴史が生産から始まっているとういことを指摘していました(これが切り離さない厳密な「理由」かは判断できませんでしたが)。

河合さんの指摘を受けて、マルゾット氏はバリューチェーンの話もしていました。上・中・下流のすべてをグループ内に抱え、それぞれが独立した企業体であるマルゾットグループは、ある種バリューチェーンを形成しているように見える、と太田は指摘しました。マルゾット氏は、バリューチェーンはコンセプトであって、グループとしてもまだ実現しているとは言いがたいが、目指すところはそこだ、という風に言っていました。

話の流れは変わりますが、アパレル商品の二極分化についても触れていました。これも河合さんのアイデアと重なります。つまり、高級なラグジュリーと低価格な商品という二つの極に収斂し、ミドル・マーケットがなくなっていくのではないか、という予想です。この点、河合さん、西田さん、マルゾット氏三者とも、程度の差はあるかもしれませんが、同じ考えのようでしたね。

B.
河合さんの質問を受けて、マルゾット氏の考えるイタリアの成功要因に触れていました。一言で、「クオリティの文化 culture of quality 」ということでした。ハンドメイドでよいものを作る長い伝統がある。これはどうやら生産者側にも消費者側にもある、ということを attitude という言葉でほのめかしていたように感じましたが、深読みすぎかもしれません。これ以上詳しい分析的なことについては触れていませんでしたね。


C.
FRIの理想とするような、関税・非関税障壁を取り除いた完全自由貿易を理想とする点に関しては共通でした。ただマルゾット氏はより現実的だったように思われます。重要な指摘としては2点。一つは完全自由になったとしても、輸送コストや販売コストなどがかかるため、生産国と全く同じ値段ということはありえないと言うこと。これに関しては英語のミスコミュニケーションがありました(same, appropreate) 。何を持って「妥当」とするかと言った話には発展しませんでしたね。

もう一つは完全自由貿易の実現の困難についてです。これには役人も含め、消費者の態度・考え方の変化が必要だが、それをどうやって実現するつもりだ、とつっこまれました。返答に窮してしまいましたね。

D.
最後は次世代のファッションのあり方として、FRIのエコロジーをファッションにするという仮説を提示しました。実はマルゾット氏も以前同じことに挑戦し、失敗した経緯をもっていました。マルゾット氏によれば、ファッションに決定的に重要なのは、お客さんがどうやってコンセプトと communicate できるかということだそうです。 この用語、英語的には少し混乱しますが、意味的には、お客さんがコンセプトをどのように体験・体感・経験するか、お店はそれをどのように伝えることができるのか、ということです。 実は大前プレゼンに対し、野口さんも同様の指摘をしていたように思います。「ファッションを牽引する要因」という言葉だったと思います。 エコロジーと言うコンセプトとファッションの接点に関してはこちらも具体的なものを持っていないので、ここも「実際、具体的にどうするの?」という突込みには答えられませんでした。(これができれば、お互い大金持ちだぁとジョークを言い合っていましたね)。

以上が会談の内容です。最後に3.として、太田がプレゼンテーションの技術的な部分で気づいた点を一つだけ指摘させてください。

3. 
項目1.でよくわかりますが、やはりデータの妥当性には非常にこだわります。当たり前のことですが。しかしどうも日本的な慣習なのか、データの出典とさらには発表年度がかなりおざなりになりがちのようです。これは僕も反省していますが、PPTの資料の中で、出典が他の文字にかぶさっていて見えにくくなっているところ、年号がないところなど単純なミスがいくつか見受けられました。本来ならばこれがなければデータとして全く説得力がなく、議論が成立しないわけです。次回以降、このようなことがないようにしたいです。皆さんのチェックもよろしくお願いします。

以上です。