2002年1月19日掲載
川下業界の戦略的分析

1. ユニクロ
新聞紙上では、ユニクロの14期ぶりの減収減益を騒ぎ立てており、またユニクロ限界説を述べる人も多くなってきたが、日本人特有の「出る杭はうつ根性」で彼らの悪口をいっても本質はなにも見えてこない。すでに雑誌や本などで彼らの成功要因は十分紹介されているが、ここでもう一度その成功要因をまとめてみると、「ファッション性と規模の経済のトレードオフの戦略的克服」という一言につきる。90年代半ばぐらいからアパレル業界はQRの波が押し寄せて、調達から販売までのサプライチェーンは、小ロット・他品種の時代に突入した。これに低価格というおまけが付いて、業界は安かろう悪かろうの方向と、高かろう良かろうという方向に二分化されたのである。こうした業界の二極化の中で、安かろう良かろうという独自のポジショニングを確立して現れたのがユニクロであった。一般に素材や工場は大量生産になればなるほど経済的なメリットを享受でき、コストはどんどん下がってくる。また、アイテムを絞ることで特定の仕入れ先と継続的なビジネスが可能となり、彼らとの間に戦略的なアライアンスを確立することが可能になるのは業界の常識である。しかし、このような方向に進めば進むほど、商品は均一化しファッション性が損なわれるというトレードオフに多くのアパレルが苦しみ始めていた時代でもあった。この状況を戦略的に克服したのがユニクロである。彼らのビジネスモデルは、中国で大量生産をして、安くて高品質な商品を消費者に供給したという論調は、まちがってはいないが、本質をはずしている。彼らの成功要因は、まさに柳井社長の哲学である「多くの人が普段着る服はファッション性に富んだものでなく、カジュアルな商品である」というアンチファッション哲学と経済合理性が見事にフィットした経営手法にある。加えていうなら、当時の「虚像としてのブランド」に辟易していた国民のニーズにうまく適合したという、時代背景も追い風となった。彼らはトレードオフとしての経済合理性とブランド力を「アンチファッション」という新しい機軸のブランドを構築することで、その両方を同時に手に入れたのだ。まさに、業界の常識を破った発想が生み出したユニクロ戦略の勝利である。

2. ユニクロがもっとも恐れている敵
ユニクロがもっとも恐れている敵はファイブフォックスであろう。多くのフォローワーがユニクロもどきをつくり、ユニクロ危うしという分析も聞かれるが、我々が見る限り本当の意味での競争は起きていない。少なくともユニクロ自身はそういった「ユニクロもどき」など恐れていないはずである。また伊勢丹が「色のついた無印良品」というコンセプトではじめたBPQCなどの類の、ユニクロ+α的コンセプトも業界の独自のポジションを確立するという意味では甘いといえる。ユニクロのアンチファッション性に対して、「それならうちはファッション性を加えればもっと上にいけるだろう」という安直な発想ではだめなのである。現在の市場は1+1=2ではなく、1+1=-5になったり、1+2=6になったりする時代なのだ。一方、ファイブフォックスは、意外と知られていないが、アパレル本業においては、業界トップの圧倒的な強さをもつSPAアパレルである。彼らのビジネスモデルは、社長の強烈なトップダウンのもと、郊外や地方、都内に最適なブランドを分散し、さらにメインブランドであるコムサを多角的に様々な色に染め、雑貨から小物までをトータルに扱った提案でその土地の特性にあわせ、確実に生活者のライフスタイルにがっちり食い込んでいる。実は、この総合ライフスタイル提案というキーワードこそユニクロがもっともファイブフォックスをうらやむ理由なのだ。このファッション企業としての総合提案力こそファイブフォックスの底力である。ファイブフォックスがすごいのは、一般にいわれる、徹底した顧客サービスぶりと同時に、確実なブランドの棲み分けと、合理的な企業文化である。このクラスのアパレルは巨大な資本や名前だけのサプライチェーンなど、実のない仕組みに非常に弱く、評論家集団になりさがり、本当の実務者がいなくなっている。しかし、ファイブフォックスは仕入れ先がたとえ小さな企業であっても、弱小企業であっても、良いものは積極的にとりいれるもの作りに対する強いこだわりを全社員が共有している。また、彼らはブランドごとに工場を見事に棲み分けし、お互いがカニバリズムに陥らないようなコントロールをしている一方、三井物産などの大手商社としっかりとしたアライアンスをくみ、調達の合理化とITの推進など、効率化するところとこだわるところをしっかりと理解しているのである。まさにロジカルなユニクロと匠のファイブフォックスというところであろう。

3. ナレッジカンパニーワールド
現在のアパレル業界を語る上でぜひとも紹介したいのが、ワールドのポジショニングである。ワールドは総合アパレル企業としては従来からその科学的な管理手法と経営手法が語られていたが、彼らのデータに対するこだわりは業界では有名である。こうした知性派集団は自らをバーチャルカンパニー化しようとしているように見える。彼らは以前自社で商事部門をつくったり、工場を造ったりして、垂直統合路線をもっていたが、今はこれらの固定資産を捨てている。また、一時期いわれたような、神戸本社を中心としたミセスブランドの卸形態路線からの撤退と、新業態と呼ばれるSPA型モデルへの集中も噂ほど単純なものではない。彼らは、こうしたスクラップアンドビルドの中から、確実にその相互のノウハウを吸収し、資産の軽量化とともに、ナレッジの相互浸透を高めアジルで知的な組織をつくりあげているのだ。SPA部隊の調子がよいときは、その手法に集中し、店舗からの情報を確実に川中、川上に流し込むノウハウを蓄積しつつ、同時に卸業体にその血液を注入し、両方の良いところを生かした新しいナレッジ垂直統合を目指しているのである。この戦略は、彼らの次のような動きをみてもあきらかだ。まず、フロントエンドには、バーチャルSPAとよばれる、卸の低リスクとSPAのブランドコントロールの両方を得られる新しいコンセプトを立ち上げ、SPAのKSF(成功要因)は店舗をもてばいいのだという誤った業界の常識をあざ笑うかのごとく、そのナレッジを自社資産としている。また、プロキュアメントに関しては、WP2という電子調達マーケットプレイスを立ち上げ、画一化された調達プロセスを多様化する試みをしている。内部オペレーションに関しては、社内にはすでに多くの商社マンが常駐し、重要戦略会議にも同席している。彼らと席を同じくして動くことで、商社の調達ノウハウの蓄積と浸透をはかっているのだ。このように、販売、社内オペレーション、調達のセルサイド、インサイド、バイサイドのすべてをバーチャル化することで、企業体としてのナレッジマネージメントを実現しようとしているの。このような、ナレッジの垂直統合と、徹底的な資産の軽量化を同時に実現するバーチャルカンパニーへの道を歩む次世代型アパレル企業としてのワールドにも今後は目が離せない。

4. 百貨店
日本では百貨店からの本格的なプライベートブランドは立ち上がっていない。「なんでもあるということは何もないということだ」という台詞は、現在の百貨店を表す表現であるが、百貨店とはその立地からもステイタスからも潜在的なブランド価値は十分あるはずである。従来型の「ハコ商売」では、より目が厳しくなった消費者は、一層の深みをもった専門店などに流れるのは明らかである。こうした消費者をロイヤルカスタマーとすべく悪戦苦闘しているわけだが、百貨店のプライベートブランド実現のポイントは「自社調達」であると考える。まず百貨店というのは、様々な高級な商品を複合的に消費者に提供しているわけだが、それらに統一性と共通した提案がないというのが最大の欠点である。いくら販売員をコンサルティング型で強化したところで、商品ミックスが不揃いでは提案のしようがないわけだ。百貨店は生産と調達と販売というファッションビジネスのもっとも基本的な部分を外注化しており、その外注先が百戦錬磨のアパレル企業や商社なのだから、彼ら以上のプロダクトがだせるはずがない。こうしたもの作りの仕組みを自社の資産とし、これを消費者の声と直結させる仕組みが必要なのである。そのためには、アパレルが小売りに降りてきたように、百貨店も川上に登って行かねばならない。そして、豊富な商品調達ノウハウと顧客の声をダイレクトに拾い上げるネットワーキングから、消費者に百貨店として独自のライフスタイル提案をしなければならないと考える。このとき、よく言われるように、すべての商品に自社ブランドをつける必要はない。たとえばソニーのパソコンのバイオなどは、使用している部品は他社のパソコンとまったく同じでも、その組み合わせ(商品ミックス)を戦略的に構築し、独自のデザインやソフトを使うことでマルチメディアという独自のブランドポジショニングを持っている。要は、何を消費者に提供するのかという百貨店独自の視点を持ち、そのポジションにフィットした商品ミックスを多彩に提供することでプライベートブランドが形成できるのだ。こうした商品ミックスを実現するためには、サプライチェーンの物流と情報流に、彼ら自身が積極的に介在する必要がある。従来のような生産と企画はアパレルや商社任せでは、総合的な商品ミックス型プライベートブランドの提案はできないであろう。自社調達が今後の彼らのキーワードになるはずだ。