ビッグピクチャーを描け ~改良改善の積み重ねでは真の改革・創造は生まれない~

企業改革、行政改革、政治改革、どれも上手く進んだ例が非常に少ない。それはなぜか考えた事があるだろうか。どれも高いスキルが必要だからだろうか。
あるいは、事業予測は外れる。各地の道路や橋、地下鉄などの建設計画はあまりにお粗末だが、企業においても新規事業の立案などは、上手くいったケースを探すのが大変である。しかも、それにあたる人達は、分析能力に優れ、高学歴と呼ばれる人達であるにも関わらずだ。
しかし、本当にそれらはスキル不足や精度不足が招いた結果なのだろうか。
【それは、何のため?】
結論から言えば、原因ではないとは言えないが、小さな要因であると言える。
例えば、私は個人ブログ『デジタル一眼レフカメラの今後』にて、一眼デジカメの将来を予測し、それは実際にその後にPanasonicを中心に発売された製品が証明しているし、スクールニューディールと言われる施策についても、過去にコラム『「原発停止による電力不足」から考える』にて提言してきた。
確かに私は、事業改革や事業企画というところの経験が豊富ではあるが、そんな緻密な分析から考え出した、という事ではないし、別に有名大学のMBAホルダーという訳でもない。コンサルティング会社の勤務経験はあるものの、その期間は数年足らずだ。
それで、将来を見据えた話が出来るのだから、スキル不足や精度不足というのは、大きな理由にはなり得ないだろう。
では、何が不足しているのだろうか。
それは、「ビッグピクチャー」である。
言い換えれば、「戦略の具体的なイメージ」だろうか。
私は、様々な企画提案を見てきたが、そのほとんどが、「それで、どうしたいの?」と思うものばかりだった。
これに答えるのが、まさに「ビッグピクチャー」である。
仕事をした経験がある人はわかると思うが、単純作業でも、結果的にそれがどの様になるか、という事が見えているのといないのとでは、やる気の出方が違うのではないだろうか。
以前、私が勤めていたベンチャー企業で、新卒入社の部下の一人から、日々の業務(いわゆるオペレーション業務)に目的を見出せず、相談を受けた事があった。そこで私は、ちょうど私が受け持っていた案件で、社長プレゼンの機会があったので、参考までに連れて行く事にした。
結果として、具体的な部分までは理解しきれなかった様であったが、その日から部下はやる気を取り戻した。それは、自分の仕事が何に繋がるのか、具体的に見る事ができたからだ。自分の仕事が誰かの役に立つ。それを、手触り感がある形で理解できたのだろう。
これから行う事は、全体像としてこういう事をしたい内のこの部分で、それが実現する事で、全体に対してこの様な効果がある、という事があるのとないのとでは、それを見る人の納得感が全く違うし、ビッグピクチャーがある事によって、携わる人のやる気が全く異なるのだ。
【ビックピクチャーがないと納得感に欠ける】
「霞ヶ関改革」などはよく話しに挙がるが、どれも「改良改善」の域を出ない。これでは、真の改革など不可能だろう。
霞ヶ関の一番の問題は、「列強にアメリカに追いつき追い越せ」の仕組み、すなわち明治時代から変わらぬ中央集権体制自体が、既に時代遅れになって、時代と制度が合っていない事だからだ。
つまり、霞ヶ関の発展的解体を行い、中央集権国家から真の地方分権国家への移行しか、価値ある行政改革はなされないという事だ。
これは実は難しい事ではない。
地方分権されたからと言って、今、霞ヶ関にある行政機能は必要だ。
但し、国家に一つである必要はなく、地方に幾つかあれば良い。それがすなわち「道州制」と呼ばれるものだ。
地方に全く同じとは言わないものの、今の霞ヶ関に近い機能をコンパクトにして置けば良い。
地方の優秀な人材も、わざわざ東京に集まって現場から離れなくとも、より地域に近いところに住み、より現場感のある施策提言が可能だ。
今は、国家が一丸となって何かをする、という事よりも、多様性を発揮し、地域地域で得意分野を生み出して、多種多様な価値創造を行わなければ、国際競争に勝ち残れないし、地域の要望に応える事は難しい。
この様に考えると、霞ヶ関がそのまま残る事を前提に話す改革案など、言葉は悪いが、所詮、改善の域に留まる内容であると言えよう。結局は、天下りはなくならないし、省庁間の壁は一時的に低くなるだけで、真に地方が発展する国家像には繋がり得ない。
もちろん、そういった努力をする人達に対して、私は尊敬の念を禁じ得ない。数々の抵抗勢力を前に、挫けず、一歩一歩進める精神力と実行力は、並大抵のものではない。
しかし、それで開ける未来には、限界があるのも事実である。
だからこそ、しっかりとビッグピクチャーを描き、それらの努力を一つたりとも無駄にしてはならないと思うのだ。
人生は皆限られている。少しの時間も無駄にして欲しくないと思うのは、私だけだろうか。
そうでないと、私は信じたい。
【些末な議論に陥る】
今、民主党のマニフェストで、最も人気のない「高速道路無料化」も、ビッグピクチャーがない良い例だ。
そもそも、高速道路を論じるのであれば、日本の交通システムの絵を描き、その結果の一つとして、高速道路無料化、という手段が出てくるはずが、なぜか、高速道路無料化の話だけが来てしまう。
本来であれば、例えば、貨物輸送はこのままトラック輸送に頼るのか、モーダルシフト(鉄道輸送)するのか、また、都市部についても、自動車に頼るのかヨーロッパを中心に展開されている地域交通網(いわゆる高度路面電車)の整備に力を入れて、自動車の乗り入れ制限を行い、人の手に安全な街を取り戻すのか、という議論もない。
更に、地方については、自動車は切っても切れない交通機関である。これは、ハッキリ言えば、人口密度が低いために、そちらの方が社会資本的に効率が良いのであるが、どこからどこまでは地方と見なして集約整備していくのか、都市部との接続はどうしていくのか(キーステーションを作って、自動車とのシームレスな乗り継ぎ環境を実現するのかなど)、その辺りの絵(ピクチャー)がない。
特定道路財源が、と言うが、その範囲を広げ、一部は環境対策(排気で環境を汚す以上、回復責任は生じる)に、それ以外は交通網整備、という財源にすれば良い。そこで、鉄道なども含めて、全ての財源を統合して、用途も幅広く行う。
それに、雇用対策の面からも、道路工事だけが公共事業ではないはずだ。予算を投じれば、道路以外でも雇用は発生するし、産業の広がりという面からも波及効果は大きいだろう。
この様な絵が前提としてあると、高速道路をどうするか、という話も納得しやすいだろう。自動車に乗っている人も、時には街で子供と歩きながら、自動車のない街を楽しみたいと思うはずだ。あるいは、地方アクセスがもっと良くなれば良いと思っている人も多いだろう。
スモールピクチャー、つまり、個別の議論だけを話して、「出来る、出来ない」の議論をするから、「やるべきかどうか」の判断が出来ないし、雑多な話しか出て来ないのである。
【あなたの身近にもそれは存在する】
これは、企業も同じである。
いわゆる個別最適というものだ。
(あまりステレオタイプに言いたくはないが)日本人は、改善は得意だ。
それは、日本人が細かな事を詰めたり、決められた事をその通り行う能力に、非常に秀でているからである。
私は、今、メーカーに勤めているが、一部の大企業を除き、海外企業の部品に対する信頼度は、日本の同等規模の部品メーカーと比べると、確実に劣る。いや、そもそも信頼度に対する考え方が異なるのではないかと思うほどだ。
これこそ、日本メーカーの優位性であるとも言える(コスト高ではあるが…)。
更に言えば、「戦略は細部に宿る」と言うが、戦略に誤りがなければ、日本企業ほど強い企業はないとも思う。それでも負けるのは、まさに「ビッグピクチャー」のなさとも言えよう。
しかし、例に挙げた「高速道路無料化」のケースのように、個別最適に陥ると、些末な議論ばかり行い、そもそもそれをやるべきか否か、という議論に行き着かない。
そして、無駄な議論に時間を費やすのである。
高速道路無料化の議論を見ていても、まさに重箱の隅の突き合いで、じゃあ地方はどうする、とか、渋滞するんじゃないか、とか、シミュレーションをしたしない、など、聞いていて不毛な事この上ない。そもそも、地域毎に事情が違うのだから、無料化だけで何かが動く話ではないし、高速道路無料化は手段である以上、目的にしてはならないのだ。
これは、何も政策や企業だけでなく、学生のイベントなどでも同じである。
やることが目的になっていて、イベントによって提供する価値を最大化するために、何を捨てて何を優先するか、という話にまで行き着かない。更に問題なのは、結果的に「何となく喜んで貰えたから上手くいった」と言って終わってしまう事だ。これでは、やっただけで本質的な学びにも繋がり難い。
もちろん、これは行政でも企業でも、同じような光景が繰り広げられている。
要は、それくらい根源的な話であるとも言えよう。
【ビッグピクチャーを描く】
では、どうすればビッグピクチャーを描けるのであろうか。
それは、兎に角、自分自身に「なぜ?」「どうして?」という問い掛けをひたすら行う事だ。
自分は、何のためにそれをやろうとしているのか、自分は、どこに向かおうとしているのか。それに、自分が答えられなくて、人に伝えられる事が出来るだろうか。
それは言うまでもないだろう。
なぜなら、改善の積み重ねの先に、ビッグピクチャーはないからだ。
改善は、現状を前提として、問題になっているところを、手直しする。しかし、改革が必要となっているところでは、そういった手直しが重なり過ぎて、問題の根源が見えにくくなり、また、関係が複雑になってしまい、少々の事では、全体の問題は解決しえない状況になっている。
つまり、改善では直しようがないのである。
まさに、今の行政機構がそうである。戦後から環境の変化に対応できるように、改善を積み重ねてきたが、そもそもの目的がずれてしまっている上に、それに対応するためには既存の仕組み自体が阻害要因になる、という状況なのだ。
こうなると、現状から阻害要因を無視した形でのビッグピクチャーを描く以外、これを解決する方法はない。
その後、それをどうやって実現するかを、真剣に検討するのだ。
また、進める上で大切な事は、
「自分だけで考えない」
「答えが見つかると信じる」
「だが、本当に思い付かなければ、諦める事も選択肢に入れる」
という事だろう。
一枚の絵を観た時、個々人によって解釈が異なるように、複数の人が見て、大きくズレのないビッグピクチャーを描くには、他者からの評価を積極的に受ける必要がある。
考えるのは自分で良いが、決して自分だけの思い込み、独りよがりにならないよう、自分とは考えが合わない人や立場の違う人の評価を、積極的に聞くべきだ。
そして、先達の知恵を活用する事も欠かしてはならない。様々な成功や失敗を積み重ねてきた人達の知恵を活用せずして、良いピクチャーは描けない。別に真似る事は悪い事ではないし、私はむしろ良い事だと考えている。
実際、私も、かなり多くの人達の知恵を拝借してきた。大切なのは、それを自分自身で考えて、自分の中で咀嚼してから用いる事だ。結果的に、同じ事をするにしても、応用度が全く異なってくる。
また、二つ目と三つ目は、ある意味、背反する内容ではあるが、何事も自分が信じ切れていなければ、最後まで到達し得ず、諦めて妥協してしまう事が多い。だからこそ、信じる事が大切だ。
しかし、本当に思い付かなければ、そんな人が描いたものは、間違っているか思い込みの可能性が高い。
何とかしたい気持ちはわかるが、それによって多くの人の時間が無駄に浪費される可能性が高い以上、自分自身でもっと考え抜く事こそ、責任ある人の行動と言えよう。
そして、最後に、最も大切なのは、「何はともあれ描いてみる」という事だ。
具体化せずに、あれこれ言う人がいるが、それで人に伝わるほど、人のコミュニケーション能力は高度ではない。
まずは、失敗しても良いから、素案を描く事が、私は何よりも大切だと考えている。
それを、評価に晒し、どの様に変えていくか。そこが腕の見せ所ではあるが、それもベースがあるからこそなのである。
但し、現状分析だけは疎かにしないで欲しいと思う。
基本的に、ビッグピクチャーも問題解決であることにかわりはない。現状認識がずれていれば、ビッグピクチャーはもっとずれる。
しっかりと徹底して現状を見つめ、しかし、それには流されない。そんな目で、日々色々なものを見て貰えればと思う。
最後にまとめよう。
改革は改善の積み重ねによって実現できない。
日本人は改善は得意な方であるが故に、それに引っ張られてしまうが、意識的にそこから離れ、ビッグピクチャーを描く努力が必要だ。
そして、ビッグピクチャーを描く事で、初めて些末な話から離れた、本質的な議論が出来るようになる。なぜなら、手段が目的化しないからだ。逆説的に言えば、日本では、かなり多くの組織で、手段が目的化されてしまっているとも言える。
また、ビッグピクチャーの話は、実は私達の身近にも存在する。就職時の企業選択なども、本来は自分の目標があって、そこに合った企業選びがあるはずだが、なぜか個別企業の名前が飛び交う事態に陥ってしまう。そのくらい、根源的かつ普遍的な話と言えよう。だからこそ、ビッグピクチャーを描く力は身に付ける価値は、非常に高いのだ。
ビッグピクチャーを描く際は、独りよがりにならない事が大切である。最後は自分で決める必要があるが、その目的から考えて、それまでは様々な視点を取り込み、多くの人が見て一定の範囲内に収まるものにしなければならない。
だが、最も大切なのは、とにかくまずは描いてみると言う事だ。最初は上手くいかなくても構わない。だからこそ、周りの評価に晒すのである。それを前提に、是非、ビッグピクチャーづくりにチャレンジして貰いたい。
そうすれば、未来への道が、あなたの前に姿を見せてくれることだろう。
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⇒ 筆者メルマガ「FRIマーケティング&キャリア(旧就職参謀)」
⇒ 筆者個人ブログ「清水知輝の視点 ~ビジネス・キャリア徒然草~」
◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates 理事長。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけたが、自身の仕事の関わり方に疑問を感じ、ベンチャー企業に転職。経験を活かし、経営・事業・商品・営業等の企画業務、ライン管理職、各種改革関連業務を担い、徹底した現場主義により業績拡大を支えつつ、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングにも責任者として従事。業界特性を考慮した実践的なアプローチにより実績多数。その後、IT・ライフサイエンス領域の投資育成企業にて子会社の事業企画や経営改革、大手メーカーの機構改革などにあたった後、地元関西に戻り、計測機器メーカーにて、経営企画担当の上席執行役員として、各種改革業務および主要事業のマーケティング、事業開発などを推進する。
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