戦略の本質に迫る

ミスミのカリスマ経営者、三枝匡の名著「V字回復の経営」に、戦略の本質は「顧客起点で創って、作って、売る」を高速回転させること、と書かれている。一方、MBAの教科書には戦略の定義として、ポジショニング、競争戦略、リソースベースなどいろいろな概念が載っているが、「創って、作って、売る」などというフレーズはどこにもでてこない。これは、一体どういうことか。
会社を構成する三要素は、企画、生産(調達)、販売だ。この流れが一気通関することで「事業」が生まれる。事業とは、あるセグメントで括られた製品と顧客の組み合わせのことを言う。例えば、吉野家には、
・サラリーマン(顧客)に牛丼(商品) を売る事業
・大学生に(顧客) に豚丼(商品) を売る事業
など、複数の事業が組み合わさっており、これらの顧客と商品を縦軸と横軸に置いたマトリクスを製品・市場マトリクスといって戦略コンサルタントが事業戦略を使うときに用いる伝家の宝刀だ。話はずれたが、三枝匡の「創って、作って、売る」というのは、この「事業」を生み出す三要素、企画、生産(調達)、販売のバリューチェーンのことに他ならない。
私も、大企業のターンアラウンドをやっていると、彼らの病巣は組織設計にあることがよくわかる。ほとんど例外はない。それは、大企業の組織がFUNCTIONAL、すなわち、機能別に設計されていて、それぞれの人間が単能工になり、顧客からの要求で発生するトレードオフを「事業」という括りで解決できないことが原因になっているわけだ。
例えば、私は8年前商社マンだった。商社というのは、個人が調達し、個人がマーケティングを行って、個人で販売し代金を回収する、すなわち、個人商店のような職種である。その私が、経営コンサルタントになってもっとも違和感を感じたのは、戦略コンサルが得意な「セントラルバイイング」という考え方だった。セントラルバイイングというのは、調達という行為を専門特化して組織に集中し、全体効率を上げるという考え方であるが、これは、今のビジネスにおいてプラスに作用するなどということはほとんどない。これこそ、実務を知らない人間の机上の空論だ。なぜなら、顧客の要求はますます多様化し、値段が高くても良いから早く欲しい、とか、少しぐらい品質を落としても良いから安く売って欲しいとか、非常に多様になっている。このとき、セントラルバイイングでひたすらスケールメリットを生かして単価コストを下げるなどということをやっていては、在庫は残るし納期だって遅くなるだろう。こうした、ビジネスのトレードオフを機能別組織では解決できないのである。
三枝匡の「創って、作って、売る」を顧客起点で高速回転させる、というのは、まさにこのことを言っている。つまり、多様化した顧客のニーズをしっかりつかみ、クイックにレスポンスを行うことでビジネス全体の歩留まりをあげてゆこうという発想なのだ。
さらに、「創って、作って、売る」の高速回転には極めて重要なインサイトが含まれる。それは、昨今の経営環境では、スタティックな戦略など役に立たないということだ。私は、依然、赤字に陥った会社に入り込み戦略コンサルタントがつくって「箸の上げ下げまで規定した」戦略提案書を「倉庫の中」で発見したが、彼らの提案は、人間をロボットと同じように考えているとしか思えなかった。ここには、スタティックな戦略からダイナミック(動的)戦略への転換がある。それは、何ヶ月もかけてマーケティングをおこなうよりは、「まずはやってみよう」とばかりに、小さく実行し、PDCAを高速に繰り返しながら微修正を行ってゆく、ということなのだ。これが、「創って、作って、売る」の高速回転の本質であろう。三枝匡が、高速回転が戦略の本質であると言っている理由はここにある。
この考え方は、私の専門であるアパレルにおいても非常に有効だ。アパレル業界の成功の鍵(KFS)は、SPAと呼ばれる、製造小売業ビジネスモデルである。分かりやすく言えばユニクロだ。彼らは、自ら売場(販売)持ち、自ら企画し、自ら中国の工場を管理している。つまり、創って、作って、売るが一気通関しているわけだ。先週の業界新聞に、アパレル総じて売上ダウンのなか、ユニクロ一人勝ちの記事が載っていたが、未だにこのことを分かっていない経営者が多いのは悲しむ限りだ。「負け組」経営者の口癖は、「天気が悪かった」とか「少子高齢化」で市場が縮小したとか、ようはマクロ的な他力本願的発想で自らの怠慢を隠していることだろう。
この記事はFRI Magazineからの抜粋です
http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/09/P0000975.html
【著者】
河合 拓 (かわい たく)
経営コンサルタント 広く流通、小売業界に対して事業の立て直し、組織改革などを行っている。得意領域はマーケティング、事業戦略、生産性向上、営業改革、ナレッジマネジメント導入など。手がけた企業は国内外の大手上場企業。製造業、IT 企業、総合商社、流通企業など。赤字の上場企業を半年で黒字化させるなど、過去5社の立て直しを行いすべて成功裏に終わっている。
NPO法人FRIの設立者(現在はシニアアドバイザー) 自民党への政策提言、私立大学と大手商社と産学協同ブランド開発プロジェクト、大学生向け就職支援、中小企業向けコンサルティングなどを行っている。
(講演、執筆)
繊研新聞 (全国紙)
「ザ・ターンアラウンド」アパレル業界の事業再生 2007年 9月より連載予定
「間違いらだけのQR」「ファッション業界は08年に起きる地殻変動に備えよ」連載
チェーンストアエイジ 「キャッシュフロー経営」
大手都銀向けビジネス雑誌寄稿
大手製造業向けビジネスマガジン寄稿
政策学校一新塾 (大前研一設立) 講師 経営戦略アドバイザ
「ロジカルシンキングと会議の設定」
「仮説構築と情報収集、分析の技術」
「プロジェクトマネジメント」
「モチベーションマネジメント」
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