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戦略立案の実務

2007年12月29日 by 創設者 河合 拓   

創設者 河合 拓

【戦略論の限界】
 日本人は「ものまね」が得意だ。とくに、海外で誰がああいった、こういったなどということを「知識」として吹聴する人が多く、自分自身で開発したコンセプトなどを発信している人は、私の知る限りほとんどいない気がする。このように、現在主流になっている競争戦略論の原点は、アメリカなどで開発された競争戦略論が基礎となっている。これは、簡単に言えば、競争環境をスポーツやゲームのグランドととらえ、そこで競い合っているプレイヤー、そして、そのプレーヤーが戦っている範囲、強みや弱みなどを分析し、グランド全体にあいている市場や領域を見つけ、競争相手が手を出せない領域で自分の会社の強みが生かせるホワイトスペース(白い領域)に自社を持ってゆく、という考え方で、ポジショニングと呼ばれる。しかし、私は、以前から、こうしたポジショニング的戦略論に強い違和感を感じていた。

 例えば、トヨタやSONYなどの会社、または、液晶 VS プラズマ、ブルーレイ VSHD-DVDなどの規模であれば、成り立つのかもしれない。こうした企業や製品は市場の50%程度のシェアをとり、まさに、一社の売上げを30%上げようとすれば、ダイレクトに競争相手との関係性が視野に入ってくるからである。


 しかし、よく考えてもらいたい。我々が扱っている実際の商品は、ソニーのブルーレイのような大それたものか? そもそも、そんな大規模な競争環境など、日本に何社あるというのか。ほとんどの事業は、売上げ規模 10億〜100億、または、そういった事業の複合体となっているはずだ。


 例えば、私が手がけた多くの企業、組織の売上げは100億〜300億というところだった。500億クラスの企業であっても、その中にはまったく異なる競争環境を持つ事業が混在し、それらの規模は100億程度が多い。それらを構成する個別の事業は100 - 200億という程度に分解されるはずだ。そして、それらの事業に個別の競争相手が存在し、まったく異なるKFS (成功要因)で競争をしているというのが実態なのである。


 一例を挙げよう。例えば、私は外食事業の事業戦略を立案したことがある。私が入る前の企業の事業計画を見ても、対象となる立地、その競争環境と、セオリー通りの分析が進められていた。しかし、その「抽象的な」事業計画はまったく本業の成長に寄与しないばかりか、その会社を瀕死の状態に陥れたのである。実際、私が個別の立地、個別の店舗を分析していったところ、少子高齢化の影響が売上げに関係しているなどと言う事実は一切なかった。このように、実際に自分で事業をしっかり見ていない人間ほど、売上げの低迷を「少子高齢化」など、マクロ状況のせいにし、成長戦略を「団塊の世代」などに連動させる。


 これをマクロで見てみよう。例えば、ある事業の市場規模が10兆だとする。しかし、当該企業の市場シェアはコンマ5パーセント、多くてもせいぜい5%程度であり、私が手がけているサービス産業、流通、卸事業などはほとんどがこのケースだ。そして、そのシェアというものは、大メーカーの系列取引でもないのだから、毎年上下に揺れ動く。コンマ5パーセントの事業が、コンマ8パーセントになるのは十分「ぶれ幅」の範囲なのである。


 しかし、その差、コンマ3%といえば、その組織の売上げ規模言えば60%である。あなたの会社の売上げが60%もあがったら社員はびっくりするに違いない。ここからも、机上の競争環境分析などよりも、事業を推進する人の「がんばり」で売上げなど上下30%ぐらいは平気で上がったり下がったりするということなのだ。当たり前である、世の中は計画経済ではないのだから、決められたシェアなどという定義は存在しない。実際の購買は、その日の雰囲気や気分でドラスティックに行われたり行われなくなったりしているのだ。


 つまり、ほとんどの日本企業、事業の売上げ倍増などというのは、競争環境のポジショニングで決まるのではなく、偶発的な「ぶれ幅」の中で乱高下するレベルのものといえる。


 例えば、私は依然、ある投資ファンドの方からアパレル業界の市場規模と投資の可能性について相談を受けたことがった。アパレル市場の市場規模は、約10兆円で推移し、少子高齢化の影響で環境はますます厳しくなってきているのではないか、と聞いてきたのだ。私は、その分析は本質的に間違っています。アパレル事業に市場規模など関係ありませんと説明した。


【市場規模の幻想】
 市場規模という考え方は、例えば、日本人の人口が12000万人で、3ヶ月に1回パンツを買い換えるから、、、、というロジックではじき出す。実際、大手のコンサルティングファームの面接では、「ゴキブリほいほいの市場規模を算出せよ」などという問題を学生に出して内定者を決めている。全く本質的ではないと感じる。


 例えば、ファッション商品の性質を考えてみれば、コートやジャケットは「パンツ」とは全く違う動きをすることなどすぐに分かるだろう。まず、消費者は、ファッション商品を生活必需品として定期購買しない。その購買行動は、きわめて偶発的であり、気に入った商品があれば何万円でも出すが、気に入らない商品がなければ一切買わないという種類のものだ。さらに、競合相手は、コートに対してコートではなく、「お金があるから、コートを買おうか、それとも伊豆に旅行しようか、高級レストランで彼女と食事でもしようか」など、贅沢消費の様々なものとの競争になる。


 さらに、アパレル業界最大手のワールドでも、市場シェアはコンマスーパーセントというところで、上記のようなレベルの不確実性があちこちで発生しているわけだ。市場規模 x 競争確率という公式がいかに当てはまらないかと言うことはこれでおわかりかと思う。実際、不況だ、不況だといわれていても、109のように渋谷の店だけで一月1億を売り上げるブランドが突然出てくるのもそのためだ。ようは、よいものであれば、市場規模が年率3%で落ちていても、一ヶ月で300%の成長をするのである。


 大前研一は、この現象を、競争ではなく徹底して顧客志向で考えよ、と我々に説いている。まさに、その通りだと思う。競争に勝つことは事業の目的ではない、ひたすら顧客にとって何がよいかということを考え、その結果、競争相手に勝つ、または、共存させるというのが正しい戦略立案のステップだろう。私は、実際のプロジェクトでは、常にこうした考えを持ってやっている。


上記は、私のFRI Magazineからの抜粋です。もっと読みたい方はぜひご購読ください
http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/09/P0000975.html

 

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