コストワールドとスループットワールド

全体最適と個別最適という言葉がある。その本質はTOC(制約理論)にて表されているわけだが、この言葉ほど分かっているようで、わかりにくい概念はない。私とて自分の頭の中がはっきり整理できたわけではないが、おそらくこういうことではないか、というものが実感として沸いてくるようになってきた。
「コンサルタント」に対して、「所詮は机上の空論である」とか「理屈だけでうまくいえば苦労はしない」などという批判を良く聞く。この言葉をそのまま受け取れば、「机上の論理」としては正しい、「理屈」は正しい、となるが、本当にそうだろうか。実業経験10年、そしてコンサル経験6年の私から見て、「理論」と「実践」に乖離はない。もし、理論が単独で存在すように見えて、かつ、実践をうまく説明できないとしたら、それは理論が間違っているからだ。私は、実業で営業をやっていたが、コンサルになった今、理論で説明できないことはないと確信している。その典型が、コストワールドとスループットワールドの混合である。
戦略コンサルタントとそうでないコンサルタントの最大の違いの(この場合の戦略コンサルタントというのは、戦略系コンサルファームに勤めている人、という意味ではない。戦略的な思考ができるコンサルタントという意味)最も大きな部分は全体鳥瞰力であると思う。頭の良い人は沢山いるが、全体を鳥瞰できるスキルをもった人は少ない。頭はよいが、全体が鳥瞰できない人の特徴は、思考がコストワールドの世界(個別最適の世界)で物事を考えるということである。
例えば、3C分析というものがある。顧客、競合、自社の視点で戦略を立案するのだが、数多くのコンサルの提案書を見てきた私が気づいたのは、これらの3Cの視点を「排他的関係」に並べ、独立してスコアリングし、評価するという手法を取っている人が多いということである。この考え方は、一見科学的に見えるが、その分析の手法に致命的な欠陥を持っている。それは、顧客、競合、自社の関係の中に、お互いに依存関係にあったり、トレードオフの関係にあったりするものが考慮されていないということだ。例えば、自社の最も強い領域を生かして、顧客のニーズに訴求すると言われるが、その強い領域をハイライトさせると、顧客を選べなくなってしまうということがあったとしたら、排他的関係によるスコアリングは通じなくなる。
この排他的関係によるスコアリングというのは、実は「改善」の発想である。戦略の発想ではない。「改善」は、影響因子を網羅的に出し、コスト効果と難易度というペイオフマトリクスにて優先順位を決定し、上から叩いていくという手法を取るが、戦略的うち手はそうはいかないことが多いのだ。
大前研一氏の「企業参謀」の中に、Strategic Dgrees of Freedome (戦略的自由度)という考え方があるが、まず、対象となる検討領域に対して「制約条件」と「前提条件」、つまり、「動かすことができない前提」を明らかにし、打ち手の自由度の「幅」を決め、取りうるオプションの評価を行う、というのがストラテジーの立案ステップとなる。ここに、競合他社または、他のゲームに参加しているプレイヤーの「利潤動機」とその方向性を重ねれば、事象と事象の間のトレードオフ、依存関係などが明らかになる。
シナジー、隣接事業など、戦略的打ち手のオプションは、既存の資産を最大限活用することでレバレッジをかけていくということが、まことしやかに言われているが、これは今まで「経験則」の中で真であると言われていたことであろう。しかし、制約理論(TOC)を使って整理してみると、極めて実践的なうち手をきれいに理論立てて説明することが可能になる。ここが、できる人は、話を聞いていて「切れ味が鋭い」と感じる人なのだ。逆に、表面的な理屈でしか話せない人は、言っていることは分かるが、内容が浅いと感じる。
「なんちゃってコンサル」の提案が「机上の空論」と揶揄される背景には、コストワールド(個別最適、排他的関係)と、スループットワールド(全体最適、依存関係とトレードオフ)の違いが混乱しているケースがほとんどであると私は(これまでの経験から)確信している。本質的であるということは、この事象同士の依存関係がクリアに説明されるときなのだ。
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【著者】
河合 拓 (かわい たく)
経営コンサルタント 広く流通、小売業界に対して事業の立て直し、組織改革などを行っている。得意領域はマーケティング、事業戦略、生産性向上、営業改革、ナレッジマネジメント導入など。手がけた企業は国内外の大手上場企業。製造業、IT 企業、総合商社、流通企業など。赤字の上場企業を半年で黒字化させるなど、過去5社の立て直しを行いすべて成功裏に終わっている。
NPO法人FRIの設立者(現在はシニアアドバイザー) 自民党への政策提言、私立大学と大手商社と産学協同ブランド開発プロジェクト、大学生向け就職支援、中小企業向けコンサルティングなどを行っている。
ベンチャー事業会社経営顧問(社長付け経営戦略アドバイザー)グローバルに展開するアパレル企画会社の社長直属の戦略アドバイザーを務め、アジアに展開するブランド戦略に関する立案を支援している。また、公開企業のコンサルティング事業部、部長代行も勤める。
(講演、執筆)
繊研新聞 (全国紙)
「間違いらだけのQR」「ファッション業界は08年に起きる地殻変動に備えよ」連載
チェーンストアエイジ 「キャッシュフロー経営」
大手都銀向けビジネス雑誌寄稿
大手製造業向けビジネスマガジン寄稿
政策学校一新塾 (大前研一設立) 講師
「ロジカルシンキングと会議の設定」
「仮説構築と情報収集、分析の技術」
「プロジェクトマネジメント」
「モチベーションマネジメント」
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スタッフ 木原 工
副理事長 三島 正寛
スタッフ 宮崎 善輝
理事長 清水 知輝

この記事へのコメント (2件)
さすが、いつも読んでいますが、河合さんのお話には深い示唆がありますね。
全体最適化の話し、実は僕も昨日ちょうどこのことを考えていました。
全体最適化と個別最適化の視点。
これを仕事にあてはめると、個別の仕事を最適化しようとする=目の前の仕事を処理しようとすることは、目の前の自分に与えられた仕事の有意性や目的が見えないままいつまでもルーチンな仕事を続けて、だんだん飽きて効率も悪くなる。
全体最適化の観点で仕事が出来るというのは、上から与えられた仕事に対して一瞬考えてみて、これは何の目的でやる仕事なのか、全体(会社・部門)にとって最適なタスクなのか!?という
視点を持てるようになる。
全体最適化の視点から、目の前のタスクを再考することによって、つまらない惰性的仕事の仕方から、自ら新たなマニュアルを生み出すような仕事のしかたが出来るようになる。
先輩達と気軽に始めた起業の、アルバイトみたいな仕事の中からですが、実際の仕事の中でこのような視点を持てるようになると、なかなか仕事も楽しくなってきますね。
投稿者: ネイ | 投稿日時:2007年07月26日 15:01
こんにちは。鳥瞰力は右脳を活性化することで磨きがかかります。
今回のSummer Camp 2007 では、プロフェッショナル論として、私の単独セミナーを企画していますので、ぜひ期待していてください。
投稿者: 河合 拓 | 投稿日時:2007年07月26日 21:53