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塩一つで思考を広げることができるか

2007年7月 6日 by アドバイザー 河合 拓   ブックマークに追加する

アドバイザー 河合 拓

「ガンジー」という映画を見たことがあるだろうか。イギリスがインドに攻め込み「塩」を奪うことで国民を掌握しようとしたシーンがあった。そう、塩というのは人間が食べ物を口に入れるために絶対に必要なものであり、国家戦略物資なのである。昔、日本にも専売公社という公営の会社がいて「塩」の販売を独占していたのはそのためだったのだ。当時の発想は、もし日本のある一社が塩を独占し、「資本の論理」で値段をつり上げれば、「ガンジー」にでてくるインドのような悲惨な目に遭うと言うことである。しかし、こんなばかげた理屈を現代でも信じている人は誰もいない。

 今は、むしろ公営の会社の非効率が日本の国際競争力をそぎ、いわゆる国民にとっても生活コストを上げているガンになっているという意識の方が強いだろう。そこで、この「塩」の販売も民間企業にゆだねられたのである。


 イギリスに攻め込まれたインドと今の日本が決定的に違うのは、誰かが資本の論理で「塩」を独占しても、中国やアメリカから山のように塩など輸入できると言うことだ。実際に、東北など寒い地域に道路などにまかれる産業資材用の塩(食塩ではない)は、ほとんど海外からの輸入になっている。もちろん、海外から食塩を輸入してもなんら味的に問題はない(と私は思う)。


 そこで、食卓を見ていると「沖縄の塩」、「天然乾しの塩」「なんとかの塩」など、塩の味を差別化
して様々な「こだわりの塩」が店頭に並ぶようになってきた。これは、もちろん中国などの安価な塩に対して民営化された塩の販売会社が「生き残り」をかけて工夫をしている結果である。それが原因かどうか分からないが、最近「塩味」が通好みになってきているなと感じるのは私だけではないだろう。ちょっとしたお寿司屋さんにいけば、白身などは塩で食べる食べ方を進められるし、私などは最近ではラーメンは「塩」意外に食べない。私の食卓では「冷や奴」は「塩」で食べるし、焼きそばも塩味が好きだ。他の人も、昔の「食塩」だとなんの味も素っ気もないが、最近の「こだわりの塩」であれば、いろんな食べ方をしている人がいると思う。


 塩というのは、素材の味を大事にする日本人にとって特別なもので、とりあえず(食べられるように)塩味という西洋の考え方と違い、塩の「味そのもの」が大事なのである。つまり、当初、国家戦略物資である塩を国民のために国が保護するという目的だったのだろうが、皮肉にも、国が日本人の食文化を殺していたということが露呈したと言うことになる。これは、よかれと思って子供のいらない世話をやきすぎて子供の自立心を奪っている「過保護ママ」と同じ構造だ。


 余談だが、味の素という超優良企業がある。この会社は人間の味覚(あまい、しょっぱい、からい、すっぱい)に「うまみ」があると主張し、グルタミン酸でそれを実現した珍しい会社だ。単純に「うまみ」などといわれてもいかさまくさい気がするから、独占企業として国に目をつけられなかったのだろう。しかし、スープで出汁を取るときに昆布を使うように、人の味覚には確かに「うまみ」は存在する。このグレーな部分を独占しているのが同社なのだ。同社の「うまみ」の世界シェアは70%に達するそうだ。グルタミン酸から「うまみ」をつくるのもそれほど難しいような気もしないが、以外とノウハウがあるらしくアジアなどの企業がまねをしているようだが、同社の牙城を崩すには至っていない。もはや、人間が食べ物を食べる限り、絶対に倒産しないほどの優良企業となるわけだ。


 実際に、この理論は大手商社の売り上げ構成を見ても明らかだ。彼等の利益のほとんどはエネルギー(とくに財閥系ほどその傾向は強い)で、ようは「生活必需品」を握っていれば「安泰」ということなのである。これが財閥企業の優位性だ。これに対して非財閥の伊藤忠などは、ファッション事業など、いわば、なくても生活に困らない物資で利益を上げている。いくら売上が財閥企業に近づいても、この事業基盤の違いはいかんともしがたいというわけだ。その意味で、私は非財閥企業である伊藤忠商事などの方が財閥系の商社マンよりも商売という意味では優秀だと思っている。


 さて、「塩」というキーワードから、競争環境と食文化の関係、生活必需品と独占事業の関係を考察してきた。実は、今日の夕飯が「塩焼きそば」だったので、食べながらこんなことを考えていたのだ(笑)私はよく、このように一つのキーワードからあれやこれやと思考を張り巡らし、いろんな理論を組み立てるのが好きだ。周りから見ていると、焼きそばを食いながらこんなことを一人で考えているのだから、気持ち悪く見えるかも知れないが、こうした思考の癖がコンサルティングの問題解決に非常に役に立っているのはいうまでもない。私がおおよそ問題を聞いただけでその構造を把握するのができるのは、こんなことを毎日しているからである。


もっと読みたい方は→FRI Magazine: http://premium.mag2.com/mmf/P0/00/09/P0000975.html

【著者】
河合 拓 (かわい たく)

経営コンサルタント 広く流通、小売業界に対して事業の立て直し、組織改革などを行っている。得意領域はマーケティング、事業戦略、生産性向上、営業改革、ナレッジマネジメント導入など。手がけた企業は国内外の大手上場企業。製造業、IT 企業、総合商社、流通企業など。赤字の上場企業を半年で黒字化させるなど、過去5社の立て直しを行いすべて成功裏に終わっている。

NPO法人FRIの設立者(現在はシニアアドバイザー) 自民党への政策提言、私立大学と大手商社と産学協同ブランド開発プロジェクト、大学生向け就職支援、中小企業向けコンサルティングなどを行っている。

ベンチャー事業会社経営顧問(社長付け経営戦略アドバイザー)グローバルに展開するアパレル企画会社の社長直属の戦略アドバイザーを務め、アジアに展開するブランド戦略に関する立案を支援している。また、公開企業のコンサルティング事業部、部長代行も勤める。

(講演、執筆)
繊研新聞 (全国紙)
「間違いらだけのQR」「ファッション業界は08年に起きる地殻変動に備えよ」連載
チェーンストアエイジ 「キャッシュフロー経営」
大手都銀向けビジネス雑誌寄稿
大手製造業向けビジネスマガジン寄稿

政策学校一新塾 (大前研一設立) 講師
「ロジカルシンキングと会議の設定」
「仮説構築と情報収集、分析の技術」
「プロジェクトマネジメント」
「モチベーションマネジメント」

 

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