マーケティング力を高める4 『コミュニケーション・ミックス』

ターゲットを絞り、そこに合わせたコンセプトを打ち立てる。これが基本であるが、更に細かくターゲットに合わせて、マーケティング施策を変え、それらを複数組み合わせて展開させる事を「マーケティング・ミックス」と呼び、実務では欠かせないものである。その中でも、今回は特に、顧客とのコミュニケーションの部分である「コミュニケーション・ミックス」について、詳しく触れていきたい。
その4:『コミュニケーション・ミックス』
なぜ、「コミュニケーション・ミックス」というのかと言えば、顧客とのコミュニケーションは、複数の手段があり、それらを複合的に活用しなければならないからである。
普通の人は、顧客とのコミュニケーション=広告・宣伝、と思っているが、そうではない。単に広告だけが目立つだけで、皆さんも知らず知らずのうちに、他のコミュニケーション手段と接している。
その手段は大きく分けて3つ、「広告・宣伝」「販売促進」「広報」であり、それぞれに目的や使うフェーズが異なる。更に、特に、広宣(広告・宣伝)と販促(販売促進)については、媒体や方法など様々なやり方があるのだ。
今回は、それぞれの手段ごとに簡単ではあるが、特色などを踏まえて説明をしたいと思う。
【広告・宣伝】
広告・宣伝、略して広宣とは、自らが伝えたい情報を、複数の媒体を通じてPUSH型で流すものであり、元々の歴史からして、一方通行的な色合いが強い。
特徴としては、数種類の特色のある媒体を持つ、というところで、その媒体選定と広宣内容のマッチ度によって、成否が決まる点であろう。
但し、これを本当に実践できている企業は少なく、過去の経緯から、とりあえずTVCMという安直で効果の不確かな選択が行われているのが、まだまだ実態である。
広宣媒体としては、「TV、新聞、ラジオ」が三大メディアと言われていたが、今は、「雑誌(無料誌含む)、交通広告、WEB」が猛追しており、既にラジオは三大から脱落している。
また、WEBからの情報収集が一般的になったため、新聞も危うくなってきており、最大の広告媒体であるTVも、ケーブルTVや有料放送、HDレコーダーの広まりで、昔ほどの効果は失いつつある中、今まで通りの地位は保てなくなるだろう。
他には、スーパーのちらし等の投げ込み広告や看板、カンファレンスやセミナーなどが有名だ。
更に、コマーシャルの一手法として、インフォマーシャルなどもある。
これらの変化は、「デフレはいつまで続く?」や「売上至上主義の弊害~日本企業が陥る過ち~」でも触れてきたように、マス、すなわち非常に多くの人達に誰にでも売れる商品(製品・サービス)を売ってきた時代から、限られた要望の強い人達に欲しい商品を提供する時代に変わってきた事に起因する。
ようは、どれだけ幅広く伝えるかではなく、ターゲットを絞り、そこに的確に正しい情報を充分に伝える事が重要となってきたのである(「マーケティング力を高める2 『ターゲットを絞る』」を参照)。
そうでなければ、例え今まで通り流したとしても、HDに録画され、スキップで飛ばされてしまうのがオチであろう。
そう考えると、新勢力として拡大している「雑誌、交通広告、WEB」は、新しい時代のマーケティングに合致している。だからこそ、広告としての価値が増しているのである。
雑誌はそもそも購読者はある程度想定されて作られるものだし、交通広告もそこを通る人や数などは、輸送機関がかなりの情報を定期券や券売機、改札通過数などで捉えている。WEBも、基礎情報(性別や年代など)は比較的容易に収集可能だし、成果払いが主流を占めるため、費用対効果も明確である。
これらがなぜ良いかと言えば、興味を持って貰えるであろうターゲットにより絞って広告をうつため、読み飛ばされる比率が低くなるからである。つまりは、費用対効果が、古いメディア(TV、新聞、ラジオ)のように、ある程度の規模では絞られるとしても、多数に垂れ流される媒体よりも良くなるからである。WEBは、それが測定しやすいという利点も大きい。
実際には、媒体種類ごとにもっと細かく特徴などがあるのだが、(話すと非常に長くなるため)ここでは省くとして、広宣のポイントは、媒体の特徴を理解し、商品(製品・サービス)に合ったものを選んでいく、というであろう。
これは、これからのマーケティングにおいて、最も欠かせない観点である。
【販売促進】
販売促進、略して販促とは、読んで字の如しで、特定の商品(製品・サービス)の販売を、より進める(促進する)ための支援行為の事を指す。
その手法は幅広く、店頭で行われるPOPなどの商品を目だ立たせる装飾、マネキンと呼ばれる販売員の増強、値引きやプレゼント等のキャンペーン、試供品を配布するサンプリング(試食・試飲、他商品への無料セット、特定地域での無料配布など)、セールやダイレクトメールなどがある。
今は、商品特性がはっきりしているものが多く、例えば、基礎化粧品などは、使って貰わないと機能証明ができず、一定以上の価格であれば、購入して貰う事自体が難しいため、無料サンプルは基本となってきている。
他にも、健康系のものやアイデア商品は、体験・経験が欠かせないため、こういったサンプリングは重要となる。
最近では、定価販売が基本のコンビニエンスストアで、セット販売による値引きキャンペーンが行われる事が多い。これも、人気商品とセットにし、価格を安くする事で、最初の購買を促す工夫である。
マクドナルドは、少し異なるが、新商品が出る際には値引きクーポンを多用する事で、集客力を高めつつ、その商品のブランド認知も高める努力をしている。
但し、本当の意味での在庫処分(在庫処分に名を借りたセールが大半のため)や売れ残り処分のための値引きは、本質的には、販売促進ではない。
やはり、売れ残りによるロスを減らすための「処分」の色が濃い。つまり、販促という前向きのものではなく、その店や商品のブランドを破壊しかねない後ろ向きの行為、という事を認識しなくてはならない。
販促とは、あくまで「攻め」の行為である。
但し、「攻め」だからこそ、新しい時代のマーケティングに沿って行われなければ、単なる迷惑でしかない。
一時流行ったワンtoワンは言いすぎであるが、ある程度、顧客の属性や行動に沿った形で提供される事が望まれるし、そうでなければ相手に拒まれ、促進どころか後退すらしかねない。
その点においては、非常に考慮が必要だろう。
【広報】
最もわかりにくいのが、この広報(PR:public relations)であろう。
広報とは、商品(製品・サービス)などの情報を、取材機関(TVや雑誌など様々)に適切に届け、各媒体でニュース・記事として取り上げて貰う事を指す(他に、消費者団体対応や一般の人への適切な情報提供などがあるが、ここでは、より積極的に関与できるメディア対応のみに限って説明する)。
こう書くと難しそうに思えるが、実際には、媒体側も常に新しい取材ネタを必要としているため、きちんと情報を提供し続けていれば、比較的取り上げて貰える確率は高くなる。
広告料は不要で、第三者評価というお墨付きも付くため、その効果は指摘するまでもないだろう。だからこそ、きちんと目的が明確であれば、(特に広告予算をそれ程持てないベンチャーなどは)コストをかけてでも取り組むべき内容と言える。
私はよくWBSのトレたまを見るが、時々(仕事上の)知り合いが出ていたりする。毎日、数社単位で取り上げるので、年間にすると、500以上の商品や企業が取り上げられている可能性がある。
一媒体でこの規模であるから、著名な新聞や番組、専門誌などを全て併せれば、かなりの数にのぼる。これに、昨今はWEBも含まれるため、掲載される確率は、想像しているよりは高いのである(簡単ではないが)。
広報とは、ある意味、もう1つの広告媒体を担っている、と考えるべきであるし、第三者が取り上げなければならないため、情報提供の質という面で、1つの指標になるとも言える。
最近、難しいのが、個人が発信するブログである。
ここに対しては、直接的な情報発信が出来ないため、自社サイト等のコンテンツをしっかりと作り込む以外に方法は少ない。
あまりブロガーに対し、変な働きかけを考えるよりは、まず、自らの提供している情報の価値を高める努力をすべきであろう。
安きに流れて、上手くいくことなどないのである。
【新しい打ち手】
このように、1つ「コミュニケーション」を取り上げても、様々な手段があり、それぞれの特色がある。
これらを組み合わせる事で、単純にTV広告一本槍と比べ、それらの価値を費用対効果も含め、最大化する事が可能である。
最近の具体的な打ち手としては、「開発者Blog」を立ち上げて、開発者の想いや知られざるストーリーを発信する事で、共感して貰う事によって購買を促す「共感マーケティング」であったり、WEBを基点に、無料配布などを実施し、どのような属性の人が商品に興味を持っているか、どういうところがポイントかを収集ながら、方向修正を行いつつマーケティングプランを洗練させていく、「朝礼暮改型マーケティング」であったり、サンプリングも店頭や路上だけでなく、例えば女性が多く集まるエステや美容院でのサンプリングなど、サンプリングの場所も多様化しつつあり、スーパーでもターゲットの購買特性に合わせて販売先グループを選ぶ、流通ルート戦術とマーケティング戦略の一体化などが挙げられる。
こういった地道だが新しいが取組みが、結果として成果に現れるのを、私は目の当たりにしてきた。
だからこそ、これからのマーケティングにおいては、『コミュニケーション・ミックス』の考えは不可欠である。
なぜなら、ターゲットに到達できなければ意味はないし、だからと言って全体に訴求しても、ターゲットに無視されてしまう危険性が高いからだ。
そのためには、まず、どういった手段があり、それぞれの特徴がどうなのかを、力を借りるのは良いとしても、代理店などへの人任せではなく、自身で理解する事が求められるのである。
そして、よくあるように、広宣は宣伝部、販促は営業企画部、広報は社長室や広報部というような、部門最適をはかる分担は考え直さなければならない。
それらの部門は、あくまで販売まで一気通貫で見る企画部門の専門サポート機関として位置付け、商品(製品・サービス)企画部門を支援していくのであれば良いが、完全に分担作業になると、効果的な取り組みは決して出来ないのである。
もし、会社としてそのような組織になっていないなら、自ら足を運び、自らがその一気通貫組織として動けば、高い成果に繋げる事が出来るだろう。
プロフェッショナルを自任するのであれば、既存の仕組みの中で働くのではなく、抵抗があったとしても、その時々で最適な形で活動する事が求められるのである。
最後にまとめよう。
顧客とのコミュニケーション手段は、大きく分けて3つ、「広告・宣伝」「販売促進」「広報」がある。
広宣は媒体選択が、販促は商品特性とのマッチ度が、広報は情報提供能力が問われる事になる。
一番の問題は、これらが複数の部署に分かれて、分断的に実施される事である。
マーケティングを主導していく者は、こららの最重要とも言える顧客とのコミュニケーション部分を統括していく力量が求められるのだ。
決して楽な仕事ではないが、成果を出したいのであれば、新しいマーケティングにおいては、そこまで関与する事が求められているのである。
●「マーケティング力を高める」シリーズ
マーケティング力を高める1 『マーケティングとは何か』
マーケティング力を高める2 『ターゲットを絞る』
マーケティング力を高める3 『コンセプトを打ち立てる』
マーケティング力を高める5 『新マーケティングミックス』
マーケティング力を高める6 『ブルーオーシャン戦略(BLUE OCEAN STRATEGY)』
より詳しく知りたい方はこちらへ⇒ 筆者メルマガ「FRIマーケティング&キャリア(旧就職参謀)」
◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates代表理事。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけ、その後ベンチャー企業に転進。経験を活かし、あらゆる改革・企画・管理業務を担い、業績拡大を支えつつ、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングに従事する。実践的なアプローチにより実績多数。
現在はIT系投資育成企業にて、子会社の事業企画や経営改革にあたる。
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