企業の再生・育成の仕事

私は今、投資育成会社(いわゆるハンズオン型の投資会社)で、主に育成側の仕事に就いている。
簡単にいえば流行の事業再生(ターンアラウンド)の仕事であるが、ちょっと異なるのは、育成先企業が『再生』という程には痛んでおらず、追い込まれてもいないことだ。
それだけ聞くと、事業再生よりも楽そうに思えるかもしれない。
確かに、株主(ファンドを含め)や債権者の圧力は少なめだし、時間もギリギリのせめぎ合い、という程のスパンではない。
だが、その結果、経営層や事業部門TOPクラスの中でも意識が低い人が結構いる、という大きな問題を引き起こしている。まさに「ゆで蛙」になりかねない環境であり、切羽詰った事業再生よりも、ある意味、根深いとも言える。
事業再生の根幹は、その企業の「人の再生」に他ならないため、この中途半端な余力が、再生の中で大きな障害になってしまう。
例えば、決まった事をやらない。やったフリをして誤魔化す。
驚くべき事だが、こんな明らかにおかしい事が、このような組織においては何となくなされてしまう。
しかし、まだ、これくらいは調べればわかる事で、何とか矯正する事も不可能ではない。
もっと性質が悪いのは、そもそも問題視されるのが嫌なので、全てをグレーにしており、それをクリアにする事に対して、強行に反対や妨害をする、または、一切協力しない場合である。
なぜなら、クリアにすれば、責任もクリアになるという事なので、責任を取る立場(上位者)であればあるほど、それを避けたがるからである。
例えば、コストを明確にしない、あるいは、細かに見れないような形態を取る、というものである。
再生は、事業の悪い部分を出来るだけ早く手直しし、本質的な問題を改善し、その上でプラスとなり得る部分を、集中して伸ばす事が求められる。
そうなると、事業実態を正しく見れない事は、その後の方向性を誤った方向に進ませる危険性を、飛躍的に大きくしてしまいかねない。人の問題、サービスの問題、数値の問題と、これら3つの問題について、本質的な課題を絞り込んで解決しなくてはならず、どれかが抜け落ちても解決は難しいのである。
特に、中途半端な状況にある会社は、現状が中途半端なのではなく、このまま行くと明らかに問題が増えてくるだろう、という事を認識させる事が大切である。
そこで、強力なツールになるのが、数値を見る事である。
人やサービスは、言い訳が入り込む余地が比較的ある。調査などを行ったとしても、最後は現場感覚との合致が重要なので、言い返す隙がどうしても出来てしまう。
しかし、数値はルールさえ事前に合意されていれば、誰が見ても明らかである。
だからこそ、数値面がどうなれば上手くいくか、あるいは、数値面のどこを見れば、良いところと悪いところがわかるように出来る力が非常に重要となる。
ここを支えるのは、会計に対する理解力とファイナンスの原理原則である。ここが弱いと評価が甘くなるか、ポイントがずれるため、確実に成果に繋げるところが弱くなってしまう。但し、事業自体を理解する力がないまま、ファイナンスの力だけ高めても、ピント外れの事をしてしまいがちなので、両面を併せ持つ注意が必要である。
サービスの面では、実際に顧客と接点を持つ事が重要だ。その為には、少なくとも営業と同行しても、営業の足を引っ張らない程度の営業力は必要である。なぜなら、顧客と直に接してみないと、案外、正しい評価はわからないものである。ようは、百聞は一見にしかず。営業企画や営業本部からの間接情報だけでは、サービスの本質的問題は把握しづらいものである。何にせよ、伝聞だけでは自信を持って、「ここが課題だ!」とは断言しづらく、それが実行力を下げてしまいかねない。
最初にも書いたが、事業再生は最終的には「人の再生」である。特に、サービス業はそこのウェイトが大きいと感じる。数値もサービスも、ここの再生と連動させられなければ、本質的な再生ではなく、付け焼刃的に終わる可能性が高い。
人の再生は、全てにおいて、一貫性、を持たせる事と、リーダーの有言実行力である。
そして、大切なのは、事業を営む組織のメンバーが、一時的にだけでなく、継続的にモチベートされるように持っていく事が出来れば、最初のトリガーさえ上手く引ければ、自律的改善が始まるのである。
そのためにも、サービスや数値面で、どこをどのように解決するか、そして、その後もどこを気にしておくべきか、その情報が継続的に入手可能か、というところが仕組みとして出来上がっておく必要があるのだ。
その為に求められるものは、課題解決力と仕組み作りの力、更に上位者を巻き込む程のリーダーシップである。
個人的には、再生の仕事は、最後は自分が去る事を前提に、それでも上手くいくように最初から考えて進めていく事が、上手くいかせるコツではないかと考えている。
成果を挙げる事で、ご褒美的にポジションに付く事を考えたりした時点で、本質の追求が出来なくなるし、自分がいなくても回る、という最も厳しい目標ではなく、自分がやれば良い、という甘い目標にすがってしまいがちだ。
再生とは、非常に多様な力を求められるのにも関わらず、それ以上にストイックさを求められる。
そんな仕事であると、実体験を通じて、私自身は考えざるを得ないのだ。
最後にまとめよう。
再生・育成を行うには、人・サービス・数値、の各面からの課題を本質的に見い出し、それを改善していく事により、人の意識を前向きに変換し、それを継続的に支える仕組みを作り上げる必要がある。
そのためには、経営トップも含め、あらゆる人達を自ら動かさなければならない。
そして、重要なのは、それを担う者は、自らに甘えを許さず、保身に走るような事があっては、決してならないことであろう。
これが、企業(事業)の再生・育成を担う仕事である。
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◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates代表理事。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけ、その後ベンチャー企業に転進。経験を活かし、あらゆる改革・企画・管理業務を担い、業績拡大を支えつつ、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングに従事する。実践的なアプローチにより実績多数。
現在はIT系投資育成企業にて、子会社の事業企画や経営改革にあたる。
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