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デフレはいつまで続く? ~マクロ経済分析の限界とマーケット視点の重要性~

2007年6月 8日 by 理事長 清水 知輝   

理事長 清水 知輝

皆さんは、デフレがいつ終わるか、考えた事があるだろうか?

最近、石油の高騰を皮切りに、直接石油と絡まない食料品にまで、一部ではあるが値上がりが広まってきた。
それは、石油の高騰を受け(環境保護の名の下に)、代替エネルギーの開発が進み、その中で、バイオエタノールが有望株として急浮上。その結果、原料であるトウモロコシなどの価格が上昇し、それを餌とする家畜などの価格も上昇し始めた。


また、農家が作付けを穀類から変更する事態に至り、他の食料品にまで供給量の減少による価格の高騰、という構図が広まりつつある。

これで、デフレは終わりで、商品価格が上がっていく、経済も上向きだ、と思っただろうか?

そのようなコメントをする経済評論家やアナリストなどもいるが、私はそもそもいわゆる景気循環で起こっているデフレなのかに疑問を覚える。
循環、と呼ぶには、変化率が低すぎるし、そして、変化の傾向が同一方向に長すぎる。

実際、マーケティングアドバイスをしている時に最も多いのが、「いいものなのに売れない」という事であった。
これは、同一のものがたくさん供給されるために売れ残り、結果的に価格を下げて売り切る事で起きる価格の下落、つまり、デフレとは内容が異なる。
価格を下げれば売れる、という単純な内容ではなく、価格に関わらずそもそも売れない、というものである。

そうした時に何をするかと言えば、商品自体の価値を改めて再評価し、それに反応する可能性の高いターゲットを絞り込んで、そこにあった形でのアプローチを取るのだ。このパターンがほとんどであった。

結局どうかと言うと、価値を評価して貰えれば買って貰えるし、その逆は少々価格を下げても買ってもらえないのである。
しかも、一部のブランドを除き、価格以上の価値を見出せなければ、絶対に購入してくれない。
今のモノ余り時代の消費不況の実態がこれである。
景気循環が大前提としていた大量生産大量消費環境に、明らかな変化が起きているのである。

しかし、一方で、生活自体は苦しくなったという実感があまりない(但し、楽になったとも思えないが)。
元々、それなりの収入があったとは言え、東京での一人暮らしは楽ではなかったので、あまり贅沢とは縁がないからかもしれないが、その当時と比べても、例えば、カジュアルの多くはユニクロで買っているため、同一品質だとするとアパレルで買うのと比べ3分の1以下の値段で服が手に入る。
スーツなども最近はネットでパターンオーダーを頼む事で、3万前後でキッドモヘアやイタリアや英国の有名生地を使った体格にピッタリのものが手に入る。これらは、高級ブランドスーツとほぼ同等かそれ以上の品質である。
ワイシャツもメーカー直販系で買えば、百貨店で1万円以上する品が、半分以下の価格となる。

100円ショップも進化し、かなりデザインの良いものを売るようになったし、1インチ1万円を切った!と騒がれていた液晶テレビすら、フルHDで高機能ものですら1インチ5千円に近くなってきている。
他にも、冷蔵庫やエアコンなどの家電製品も、価格自体は下がっていないが、ランニングコスト(=電気代)が相当安くなっている。洗濯機は、風呂水を使えて当たり前である。
洋酒も、昔は父親が海外出張の度に買ってきて大事にしていたが、今はそれ程の高級品ではなくなった。
私は、目が悪いのであるが、ちょっと昔まで眼鏡は2~3万円して当たり前だった。それが今や5千円を切る価格で、デザイン性の高いものも入手できるようになった。

挙げ始めるときりがないが、このように、きちんと品定めして購入していけば、以前よりも安くで良いものが手に入るようになったし、逆に、そうでない品には魅力を感じなくなった。
それは、どれだけ安くても同じである。安けりゃ買う、という購買行動は、賢明な消費者はもはや取りえないのである。

それを可能としているのがグローバル化なのであるが、そちらは別で語るとして、ようは、消費者が学習することで、無価値と感じるものにはほとんどお金を支払わなくなり、元々非効率だった部分(その多くは流通部分や必要以上の品質管理コストである)のコストが圧縮され続け、結果的に、その分だけ安くなっていっている、というのが、今回の長期デフレと言われているものの実態であろう。

つまり、消費者視点からの価格の最適化、が行われる事で、企業部門が抱えていた無駄が排除されている構造変化の過程で起きた価格下落という事であり、純粋にはデフレと呼べるものではない。

そういう意味では、まだ下がる余地はたくさんあるだろうし、逆に、付加価値を付ける余地もまだまだある。

例えば、私も都心部のマンションに住んでいるため、全戸分の駐車場があるにも関わらず、車は持っていないし、バイクも先日処分した。正直、自転車すらほとんど使わないので、車など保有するコストに見合った価値があるとは思えない。実際、マンションの駐車場利用者のうち入居者の利用は半数程度で、後は、外に一括で貸し出してメンテナンス費用を稼いでいるくらいだ。
このように、都市部での車の保有率が下がれば、レンタカーを利用する比率が徐々に高まると思われるため、なるべく同一の車を借り易くするようなマイカーレンタルサービスのようなものに、お金を払うユーザーも増えてくるかもしれない。
所有と利用の分離は、車以外にも、企業だけでなく個人でも進む可能性が高いし、その過程において、付加価値を付けられる余地がある。

下げるための余地として残された大きな無駄としては、行政や税金で救済された保護産業である銀行という非常に非効率な組織があげられる。
社保庁が槍玉に挙げられているが、まだ可愛いもので、山のように存在する天下り先の公益法人を筆頭に、行政における官僚組織の非効率さは際立つものがある(元々志望する人の大半が、安定性、を求めて入るのだから、保身が最優先されるので、当然の帰結と言えるが…)。
銀行なども、本業の貸し借りで付加価値を生み出せないので、消費者金融に打って出たり、金融商品を消費者に売り販売手数料で利益を稼ごうとする始末。

この両者は、前者の行政(官僚)は失敗を穴埋めしている国債の金利負担を下げるため、また、銀行は事業で利益を出せないので、ゼロに近い金利で借り、消費者金融の高金利や過去の比較的利率の高い貸し出し、住宅ローンなどとの差額で儲けるしかなく、その利益の源泉である金利差を守るため、必死になって低金利政策を維持している。
しかし、手始めに公益法人や特殊法人等を徹底的に精査し、価値を生めていない法人は廃止し、天下りは官公庁関連法人には全て禁止、銀行も実態に合わせた給与体制にする事や更に地銀を中心に統廃合などを覚悟して貰う事で、もっと生活者の負担を下げる事が可能だし、金利を上げる事で、貯蓄率の高い国民は、金利収入を増やす事もできる。

つまり、まだまだ無駄の排除による価格の下落は続く可能性があると言うことであり、それ自体は、生活者にとっては、実のところ、大きな問題は存在しないのである。

経済学者やアナリスト、経済評論家の言葉を鵜呑みにしていては、このような視点は持ち得ないし、新しい価値を生み出せる企業を排出し、価値を生み出せていない既存企業と入れ替えるという良い側面もあり、ずっと続くデフレが悪い、というような短絡的な評価にはならないのだ。

そして、この変化は、これからの働き方や仕事内容にも大きな影響を与えるだろう。
仕事やキャリアを今から考える人は、将来、どうあるべきかを、これらを前提に考えて貰えればと思う。

最後にまとめよう。
今回のデフレは、景気循環という過去のマクロ経済のルールに沿うものでなく、消費者視点での価格の最適化であり、その意味合いでは、最適化が進んでいない領域においては、まだまだ続く可能性がある。
その変化自体は、消費者にとっては歓迎すべき事態であると共に、一度、そのような視点を消費者が持った以上、昔のように消費者無視でも何とかなる時代には、決して戻りえない。
これは、今後のキャリアについてもインパクトがあり、消費者視点を常に持ち得なければ、自身の価値を上げる事は難しくなっていくだろう。
そして、最も大切なのは、単に学んだ事をそのまま当てはめようとするのではなく、デフレのような内容についても自ら考えて答えを出す姿勢である。皆さんも、何事に対しても、このような姿勢で臨んで貰いたい。


◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates代表理事。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけ、その後ベンチャー企業に転進。経験を活かし、あらゆる改革・企画・管理業務を担い、業績拡大を支えつつ、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングに従事する。実践的なアプローチにより実績多数。
現在はIT系投資育成企業にて、子会社の事業企画や経営改革にあたる。
 
FRI公式ツイッター(筆者が主担当です)
筆者個人ブログ「清水知輝の視点 ~ビジネス・キャリア徒然草~」

 

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