ジョブキャリアとヒューマンキャリア

今春の部の新人歓迎会での話であるが、新人の所信表明として、当部で何を学びたいかを発表してもらうことになった。
ある新入生は「○○という業務について、誰よりも詳しい人になりたい。」と語り、また別の新入生は「上司の○○さんの様になりたい。」とそれぞれに抱負を語ってくれた。このように仕事の能力を伸ばしていくときには、「業務」という軸で切る場合と、「人間性」という軸で切る場合の2種類がありそうである。本稿では、「業務」という軸での成長を見た「ジョブキャリア」と、「人間性」という軸での成長を見た「ヒューマンキャリア」という側面について、それぞれの考え方を整理してみたい。また長期的な自己成長において、どちらに重点をおくべきかをインサイトに検討してみたい。
1) ジョブキャリアとは
ジョブキャリアとは、仕事の内容や具体的な知識で経験を積むものである。仕事の内容としては、新卒が会社を選ぶ際に使ういわゆる「業種別分類」という視点がある。またある程度仕事の経験を積んだキャリアビジネスパーソンが新たに会社を選ぶときの「業務内容別分類」という視点がある。
「業種別分類」としては、具体的には「商社」や「銀行」や「メーカー」といった産業分類で分けることである。これは、非常に雑な言い方で恐縮であるが「商社」と言った側面で見れば、「物流速度を高めてゆとりある生活を提案」「ありとあらゆるものを商材にする」「想像力で新たな仕事の提案」といったことを行うのであり、「銀行」と言った側面で見れば、「堅実・信頼な仕事ぶり」「経理側面から企業の経営のサポート」「預かり資産の運用」といった業務を全般的に行う。このような業種別で見ることの利点としては、ビジネス経験が全くない者が、どのような仕事ならば自分に合うかもしれないと考える時に有効である。業種で切る場合は、ある程度のライフプランを固定化することが出来る。業務内容の時間的拘束の差、転勤の有無、一つの仕事のスペシャリストになるのかいろんな仕事を広範囲にこなすゼネラリストになるのか、ある程度人生設計を固定化することが出来る。おおむね個人が描く働き方や人生設計、趣味嗜好は変えられないものであるからこのような視点で仕事を選択することは悪くない。また新卒市場でスタンダードな切り口になっていることからしても、間違っていないといえる。
「業務内容別分類」としては、具体的には「IT」「経理」「営業」と言った側面がある。これも雑な表現であるが、ある大企業を想定して考えてみると、「IT」であれば「各セクションのオペレーションの向上」「業務管理システムの改善」「ペーパーレス化による業務改善」といったことを行うのであり、「営業」であれば「仕入れ企業や販売先企業とのリレーションの強化」「新商品に必要な材料物流の強化」「お客様に商品を理解いただくためのご説明」などがあげられる。このような業務内容別で見ることの利点としては、採用側が採用応募者の経験や人柄を見て、即戦力として自分の会社の売り上げに貢献するか否かを判断することができること挙げられる。「業務内容別」で人を判断するときは、その人のバックグラウンドや前職での経験を評価することになるため、中途採用市場でスタンダードになっている考え方である。社会人経験がある場合の転職は、前職の経験を生かして、同じフィールド又は違うフィールドで仕事をするわけであるから、「業種」に興味があるというよりも「業務内容」に興味をもって実行することになる。結果として中途採用市場ではほとんどが「業務内容別」に採用活動を行っており、それが採用側にとっても応募側にとっても望ましいやり方となっている。
さて、冒頭での部の歓迎会において行った所信表明の話であるが、この意図としてはどのような業務を勉強したいのかをフランクな中で聞くことにあった。特定の企業に新卒で入社する時点では「会社」というものにあこがれて来ている。しかし会社の特定の部署に配属されたならば、その部署はその新人を、その道で一人前になってもらうように指導をする。一人前になるためにこれから「業務」について教え込むわけであるが、具体的にはどのような業務に一番興味があるのか表明してくれると、今後の教える方向としても何を重視すれば良いのかわかる。その点でどのような業務をやりたいかを表明することが望まれていたわけである。そのため「○○という業務について、誰よりも詳しい人になりたい。」と言ってもらい今後の指導の方向性を理解するものであった。
2) ヒューマンキャリアとは
ヒューマンキャリアというのは、いわいる「どんな人間になりたいのか」であり、仕事もプライベートも含み全てにおいてどのような人生を送りたいかについての考え方である。
これは新卒時の自己分析で、10年後、20年後にどのような人間になっていたいのかを自己分析によって行う。自分の趣味嗜好をよく考え、またどのような土地でどのように暮らすのかを考えて、また結婚やその後の資金面での必要性を考えて、自分の将来像を定めることになる。経済学が好きであれば金融業界に、商学が好きであれば商社業界に、建築が好きであれば建設業界を選択し、海外に行きたければ商社・メーカー、地元に残りたいのであれば地方銀行や公務員になることがある。また仕事以外にやりたい趣味があるならば忙しくない仕事を選択することもあるし、高収入を得たいために忙しい仕事を選択することもある。これは仕事の内容よりも人生の価値観の置き方を検討することである。
冒頭の新人歓迎会の話に戻ると、「上司の○○さんの様になりたい。」というのは、その人のヒューマンキャリアを自分に重ねた目標である。具体的な業務をマスターすると言うよりも、その人に近づくことで、業務知識や実行力を総合的に学習するものといえる。この場合は、個別に教えると言うことよりも、その仕事をしている姿を見せ続けることに意味があるので特にないかをするというわけではない。宣言されたものと近くに新人を配置することが指導方針となる。
3) 自分の自己成長とは
最後に、インサイトの視点で自己成長を考えるならば、「ヒューマンキャリアを育てるようなジョブキャリアを選択すること」がキーワードになると私は考える。生きていく上で根本的に検討しなければならないのが、どのように生きるかだと思う。25才で結婚し、30才で子供を産み、35才で家を買い、40才で新しい車を買い、45才で子供の受験勉強につきあい等々、人生の中でのイベントは満載である。これを楽しめるか否かは個人の価値観にあると思うが、このようなライフイベントを経験することが人生の醍醐味であるような気がする。そのため仕事というものは、このライフイベントを経験するためのエッセンスに過ぎないと考えるのが良いのではないかと私は思う。「仕事のせいで30才になっても結婚できませんでした」と言うよりも、「30才で結婚するために会社を転職しました」ということの方が建設的であると感じるのは、ジョブキャリアよりもヒューマンキャリアを重視している証拠であると思われる。よって、ヒューマンキャリアをサポートするようなジョブキャリアの選択をすることが、人生を豊かにすることや自己成長につながると感じる。
冒頭での部の歓迎会において行った所信表明の話であるが、インサイトの視点から考えるならば、「上司の○○さんの様になりたい。」という考え方が素直な回答であると思う。個人的にも、「上司の○○さんの様になりたい。」と目標設定をしながら仕事をしておるため、仕事の経験ではなく、仕事をふまえた先人の方々の生き方に自分の目標を併せて行動するのが、自己成長の早道ではないかと感じている。
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