「ベンチャー企業」か「大企業」か~就職先としての違い~
2007年6月22日 by 理事長 清水 知輝
私は自分のキャリアの中で、コンサルティング等で大企業とも深く付き合ってきたし、ベンチャー企業で業績拡大を担ってきた経験もある。
その違いについて、自らのメルマガに幾つかのポイントでまとめた事もある。
そのためか、学生の方から「最初からベンチャーに就職するべきでしょうか」と言う質問をよく受ける。
【比較のポイント】
気持ちはわかるが、これは非常に答えにくい質問である。
なぜなら、どんな会社に入ったからと言って、合わないものは合わないし、更に活躍できるかどうかなど、もっと予測出来ないからだ。
例えば、大手とベンチャーで可処分所得はどちらが多いか、と聞かれれば即答できるが、就職する「べき」かどうかは、その人次第である。
とは言え、突っぱねるのは簡単なので、その際に私は「それぞれにメリット・デメリットがある。どちらが良いと感じるかどうかで決まる」と答えている。
つまり、一般的な正解はない、という事と、自分が「こっちだ!」と感じる方に行った方が良い、という意味である。
キャリアの大前提は、自ら築くという事であり、満足なキャリアを築くためには、まず「自分らしい」かどうかが大切だからである。
そして、なぜ「自分らしい」事が大切であるかと言えば、好きこそ物の上手なれ、ではないが、周りの人よりも秀でている状態、つまり差別化を行うには、やはり得意なところ、好きなところ、やりたいところを伸ばすのが一番だからだ。
今も、大企業を見ていると、確かに海外に行く機会が多かったり、(金額の)大きな仕事に関わる機会は多いと思うが、それでも、自分はベンチャーの方が活躍しているイメージを持てるし、そうしてきて良かったと思っている。
しかし、特に学生の立場からすれば、そんな身近に色々な仕事場を見る事はないだろう。私自身、普通の人よりは多くの違ったタイプの職場で、様々な経験をしてきたと思っているのに、当然、把握はしきれていないくらいなので、そこまで求めるのは難しい。
だが、自らが選ぶとして、それぞれの特徴を知らねば、正しい選択は出来ないのも事実である。
そこで、ベンチャーと大企業において、特に、私なりに初期段階におけるキャリア構築(新卒就職)に、関係がありそうだと判断した部分について触れる事にする。
但し、ベンチャーとは中小企業とは異なる。規模的には似通っている部分もあるが、あくまで「高成長」の企業であり、新しい事業構築(新商品か新市場、もしくは両方)に向けて邁進している企業の事である。ここがないと、結局、大企業のミニチュア版となりがちで、魅力がかなり薄くなるからだ。この点だけは、間違えないようにして欲しい。
【ベンチャー企業の特徴】
ベンチャー企業の最大の欠点でもあり利点でもあるのが、人がいない、ということである。
これは、良い面で言えば、当然人がいないので、抜擢も日常茶飯事となる。つまり、若いうちから、かなり頭を使う面白い仕事を出来るし、分業など出来る余裕がないから、最後まで仕事をやりきる、という経験が積める。
これを大変だと言って毛嫌いする人も多いが、これからの時代、一人で最後までやりきる力がない者は、結果的に人に最後まで仕事を任せきる事が出来にくいため、活躍の場を狭める事になる。
だからこそ、辛くても、そのような経験を若いうちから積めるのは、非常に良いキャリアに繋がるだろう。
私も、この時に経験した大手企業との事業提携の仕事は、今でも他の仕事にも応用できる非常に良い経験になっている。
他にも、人がいないので、早めに管理職などの経験が積める。
私も1つの部門(数十名規模)を見る経験を積ませて貰ったが、やはり、百聞は一見にしかず、ではないが、やってみないと本当に効果があるかどうかわからなかったし、部門戦略を採用から業務の見直しまで、一貫して行うという事も実際に主導できた。
大企業では、30代中頃になって、やっと係長で数名の部下を持つ程度である。
今は、マネジメントを軽く見るわけではないが、少々の人数であれば、面倒を見る事に何のストレスも感じない。こういった経験を若いうちに積めるのは、将来、早くから事業を率いるためにも大切だと感じる。
デメリットは、やはり人がいないため、学ぶ対象が少ない、最初からいた人が偉い傾向がある、というような事だろうか。
特に、新卒で入社する場合は、前者の「学ぶ対象が少ない」というのは、時に致命的になる場合がある。
新卒の場合は、最初の会社の仕事において、仕事のやり方、強いて言えば、今後の自分のスタイルを確立する事になりやすい。その際、やはり手本となるのは、周りにいる先輩となる。
その時に、もし、自分が「良い!」と思える人がいなかったらどうなるか、想像して貰えればおわかりだろう。
勿論、大企業に行ったとしても、回りにデキル人がいるとは限らないが、ベンチャーでは、あなたが見渡してわかる程度の人間しかいない場合も多く、そうなると、探しても無駄という事になりかねない。
これは、その後の仕事の成果にも大きく影響してくるため、私はここを最大のデメリット(になる可能性)だと考えている。
他には、これはデメリットかどうかはわからないが、やはり収益基盤がしっかりしていない分、いわゆる日銭商売になりがちである。これは、ゆっくり考える余裕がない反面、事業と数値の関係を身をもって体感できるため、特徴ではあるが、メリットともデメリットともいえない。但し、大企業などと違い、そういった日々の事業運営にプレッシャーが強くかかるのは確かだろう。
【大企業の特徴】
大企業の一番のメリットは、個人的には「同期が多い」「OBOGが多い」という事だと思っている。
意外に思われるかもしれないが、これは私が多くの人と関わる仕事をしているから、という面もあるが、特に、キャリアの節目節目で、新しい事に挑戦する時には、より強く感じるところである。
勿論、日銭勝負ではないので、落ち着いて学べるとか、上司がたくさんいるので出来る人を見つける事が可能、という面はある。
しかし、落ち着いて学べる、という事は、それだけ「ぬるい」という事でもあるし、上司がたくさんいると言う事は、いけてない上司もたくさんいる、という事でもある。良い面と悪い面が裏返しの関係となる。
勿論、同期が多い=人が多い、ので、目立ちにくいという面はある。
しかし、将来を考えた時に、無条件で仲間となれる「同期」は重要だと思う。
私は、最初のコンサルティング会社の同期とは、少数ではあるにせよ、年に1回は会っていて、ビジネスを中心に色々な話をする。また、仕事で困った時に、相談をした事もある(勿論、された事もある)。
そういった仲間を多く得られる事と、それに加えて、仕事の付き合い上でも、同じ会社の出身者は、同じ大学の卒業生と同様、仲間意識を持って迎えられるという利点がある。
将来、自らが仕事を取ってこなくてはいけなくなった時、このネットワークは非常に有効であるといえよう。
他の観点から言えば、大抵の大手メーカーは、海外拠点を持っており、下手な外資系(日本支社)に行くよりも、海外に長期で行く機会は多いし、その際のケアもしっかりしている。海外に行って何をするかは別として、単に海外での経験を積みたいのであればお薦めかもしれない。
デメリットとしては、年代構成がイビツである事が多い点があげられる。
これは2つの要素があり、1つは、バブル崩壊以降の現在で言う30歳前後の人数が非常に少ないという事と、もう1つは、40代以上の人数が多いという事である。
前者については、本来、先輩としてついて仕事を教えてくれる人が少ないため、仕事を直接教えて貰える機会がなかなか取れないという事態を引き起こしている。また、その先輩も、長い間、部下を持つ機会がなかったため、管理者としての経験を十分積めておらず、育成等のスキルが不足しがちだ。
これは、転職者はそこまででもないが、最初の就職、つまり、新卒就職や第二新卒においては、かなり影響が大きいといえる。
いわゆる「ロールモデル不足」に陥りがちであるからだ。
後者については、40代以上の人数が多いという事は、その結果として、役職者が固定される。つまり、若い人間は、管理職になりにくい。つまり、早くからマネジメントの経験を積んで、自ら多くの事を学ぶ機会を得にくい、という事である。
こちらは、入社3年後から入社5年後あたりで差が出てくる。大企業では、派遣社員の活用も進んでおり、本当に本質的なマネジメント経験を積みづらい環境が出来上がっている。大企業を何社か見た経験で言えば、30代後半にならないと、管理職としての顔つき、をしている人には出会いづらい。
他にも言える事は、入社後の教育制度は厚いものの、実践を通じた教育や実践の機会が不足するという事だ。
意外に思うかもしれないが、大企業の内部もこのような実態に陥っているところが多い。
最後にまとめてみよう。
「大企業」であれ「ベンチャー企業」であれ、それぞれの特性というものがある。
仕事の内容は企業規模というよりも、扱っている事業による影響が多いため、どちらかというと、企業内の人員構成の差や、その規模感から来るスピード感の差からの差異になる。例えば、コミュニケーションの取り方ひとつを取っても、50代以上は直接の対話を重視するが、20代はメールでのやり取りが当然だと考えている。
ベンチャーは若手に偏り、大企業は40代以上に偏る。バブル崩壊という荒波を受けて、ここのバランスが上手く取れている会社が少ない。ただ、どちらも、昔よりも新卒で入社する人にとって厳しい環境にあるのは確かだ。
どちらに行っても課題がある以上、自分がやりやすそうと感じる方に行くか、あるいは、逆張りで行くか。それも覚悟を決めていくしかなく、決める事ができれば、結果的には、成果を生み出しやすい人材になれるだろう。
私自身は、就職などのキャリア選択において、敢えて課題が多そうな場所を選んでいる。課題が少ない理想的な場所ほど、活躍の余地が少ないと考えるからだ。大変かもしれないが、そういう選択方法もあると覚えておいて欲しい。リスクが大きいほどリターンも大きい、という原則は、キャリアにおいてもあてはまる。
また、ベンチャー企業は、全て創業者次第、という事も忘れてはならない。ほとんどのベンチャー企業で、取締役会がまともに機能していないのは、公然の秘密である。VCもそれをコントロールできるほどの人材は少ない。逆にファンドはリターンしか目がないので、事業に悪影響を及ぼす場合も多い。
そして、人は直ぐに気が変わる生き物である。今、社長と波長が合っていても、ずっと続く事がないのは忘れてはならないだろう。これも、私の経験から言える事である。
但し、これらはあくまで一般例であり、確率論的議論である。
良い先輩が集まるベンチャー企業はたくさんあるし、大企業でも、同期が単に多いだけで話した事すらない人がほとんど、という場合もある。
最後は、当たり前ではあるが、自らの選択で決まる以上、きちんと自分が納得がいく程度は、見定める事が大切だと言えよう。
◆筆者紹介
FRI&Associatesの草創期メンバーで、現在NPO法人FRI&Associates代表理事。
外資系コンサルティングファームにて、事業戦略、業務改革、IT導入などを手がけ、その後、自らの関わり方に疑問を持ちベンチャー企業に転進。経験を活かし、経営企画・事業企画・商品企画・営業企画など様々な企画業務、数十名規模のライン管理職、業務・会計・人事などの各種改革業務などを担い、業績拡大を支える。また、多数の業界大手企業のマーケティングコンサルティングに責任者として従事する。実践的なアプローチにより実績多数。
現在はIT系投資育成企業にて、子会社の事業企画や経営改革、大手企業の機構改革などにあたる。
※FRI公式ツイッター(筆者が主担当です)
※筆者個人ブログ「清水知輝の視点 ~ビジネス・キャリア徒然草~」
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