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意思決定の科学

2012年9月19日 by 理事 高橋建人   

理事 高橋建人

仕事でもプライベートでも、人は様々な意思決定を日々行っている。しかし意思決定をすべきことが大量にあるが故に、ほとんどの場合は無意識のうちに意思決定を行っているのではないだろうか。
何となくで決めた方針を必死になって効率化しようとしてもがくよりも、最初に時間を掛けて適切な意思決定を積み重ねていく方が最終的には高い成果に繋がる。
今回は意思決定についてそのプロセスとポイントについて考えます。

 
まずは次の問いを考える所からスタートしていきたい
 
【問い】
意思決定とは
1. 即断即決。その場その場で素早く決めて実行すべきだ
2. じっくり時間を掛け、検討して決めるべきだ
 
さて、皆さんはどちらを支持するだろうか。
自己啓発や自伝的な本だと解1の意見が大半を占めるだろう。しかし私のベンチャー経営経験を鑑みると必ずしもそうとは思えない。このアンチテーゼを掘り下げていこう。
 
【正しい意思決定には情報収集と代替案の検討が欠かせない】
確かに解2は大企業的でスピードが遅い印象を持つが、拙速な決断が組織にコストをもたらすこともある。
例えば現場の人から上がってきた業務改善の意見について、その担当者の話を聞くと一見良さそうな意見に感じ(もちろんその人はすべきだと思って意見を上げる訳なので)、その場で実行を決めてやってみたところ、実は別の業務に支障が出て結局振り出しに戻るということがある。この場合、実行に掛かった手間・それを元に戻す手間が掛かっただけである。
 
これがきちんと会議に諮られていれば、その意思決定の適切さを証明するために「必要な情報」を提示することになるだろうし、また「反対意見や代替案」との比較検討が可能になる。これによって不適切な意思決定を回避することが可能になるのだ。
 
【検討時間もコストである】
前文で述べたように意思決定に情報・代替案の検討が重要であることに異論がある人はいないだろう。しかしそれに時間が掛かりなかなか意思決定されない、というデメリットは解1を支持する人の論拠になる。そこで意思決定に要する時間が生むリスクにはどのようなものがあるか考えてみたい。
私が考えるデメリットは下記3つだ。
 
1. 効用性の低下
意思決定が遅くなることにより、意思決定の前提となる環境が変化してしまい、意思決定の効用性が落ちる
例)新しいマーケティングプランを検討している間に、ライバル企業が新しい手法でマーケットシェアを奪ってしまい、新しいプランを導入しても巻き返しができなかった
 
2. 実現可能性の低下
意思決定が遅くなることにより、社内がトーンダウンしてしまい、いざ意思決定がされてから実行に落とし込むまでにより一層の時間が掛かってしまう。最悪の場合にはそのまま実行がフェードアウトしてしまう
例)顧客の向けのイベントを企画していたが、会場や費用などでもめている内に皆が忙しくなってしまい、結局実行されなかった
 
3. 意思決定による効用 < 検討コスト
意思決定に対して検討を重ねるが、結局その意思決定に得られる効用性に大きな差がなく、検討コストの方が大きくなってしまう
例)レストランで散々メニューを検討して頼んだが、後から考えるとどれでも大差がない気がする
 
これらの「検討の罠」にはまらないように注意したい。
 
特に3の事項について比較検討するのは時間の無駄といっても過言ではない。日々の時間効率を上げていくために、どれでも大差がないことについては「どれでも良い」という意思決定をスムーズに出来るかがポイントになる、
 
【意思決定プロセス】
ここまで代替案の検討や時間コストについて考えてきた。では実際にはどのような手順で意思決定をすべきか考えていきたい。
 
・ステップ1. 意思決定することの明確化
何を決めるべきか、それが問題である 。そもそも何に対して意思決定をしようとしているのか、明確化せずに議論が行われることが往々にある。今回は投資対象を決めるのか、投資金額を決めるのか、回収プロセスまで決めるのか、などどこまでの範囲を決めるべきかをまず明確にする必要がある。決めるべきことのゴールが揃わない限り、適切な意思決定は行われない。
 
・ステップ2. 重要性の検討(=検討期限の設定)
それほど重要でない事項であれば、クイックに検討して実行すれば良い。一方で重要だと判断する事項はしっかりと時間を掛けるべきである。この「重要性の判断」が意思決定の要であると言える。
 
ただし重要性を判断するための情報収集が必要な場合は、最小限の時間を持って情報収集をする。しかし意思決定者は普段から情報収集をしており、大局的な仕分けについては、その場で判断できることが望ましい。
 
重要性の判断にも、その後の意思決定にも、さらに実行詳細についても、とそれぞれのステップで時間を掛けていっては話にならない。
少なくとも重要度の判断については、直観的に正しい解答を導けるように日々備えておくべきである。
 
・ステップ3. オプションの洗い出し
代替案を十分に洗い出しているのか、検討する。最初の意見に引きずられないように異論・反論を許容する場づくりが必要である。意思決定のための会議はこのステップのためにあると言うべきだろう。アイデアは往々にして全体感を持たずにスタートすることが多いので、このプロセスを経ることで果たして全体最適に寄与することなのかどうか、フィルタリングをする。
 
・ステップ4. 比較検討と決定
オプションの洗い出しが適切に行われていれば、意思決定はシンプルなルールとなる。
「必要な効用性が得られ」かつ「費用対効果が十分となるもの」である。
この条件を満たすものが複数ある場合は、効用性の絶対値と費用対効果のバランス を見て意思決定することになるが、どう考えるのが適切か。
 
私は必要条件を満たす中でもっとも実現しやすいものを取るべきだと考えている。最大限の成果を上げる可能性があるがやや時間・手間が掛かるもの、よりもまずは動かせるものを動かして結果が見えてから次の手を打つ方が、最終的には高い成果になるのではないだろうか。
 
またこの時に注意したいのが、費用(リスク・コスト)の適切な洗い出しである。意思決定に際してある程度、「実行後にしか分からないこと」が出てくるのは仕方がない。しかしそれがクリティカルなものであったり、費用対効果や効用性に大きく影響を与えるものであったりしてはならない。特にシステム導入などで、入れてから「あれができない」「これができない」という話を非常に良く聞く。これをどこまで事前に想定して意思決定の検討に盛り込めるかが意思決定者の腕の見せ所と言える
 
・ステップ5. 周知
意思決定プロセスは必ず明確化し、周知すること。これによって次回以降の意思決定の精度を上げることができ、また意思決定プロセスに直接関与していない人にもそのオプションを選んだ理由・期待されている効用が伝わり、組織全体に効率良く意思決定事項が反映される
 
 
以上で見てきたように、意思決定プロセスの中で力量を大きく問われるのはステップ2の重要性の判断及び適切な期限設計とステップ4の見えないリスクの検討である。
 
【まとめ】
意思決定に対して多くの場合に、拙速に過ぎるか、時間を無駄に掛けすぎるか、どちらかの誤りを犯していることが多い。
前者はベンチャー的意思決定であり、後者は大企業的意思決定であると言える。
どのような場合でも、まずは重要度を判断して適切なリソース配分を考えてから、意思決定に臨みたい。
 
 
◆筆者紹介
高橋建人(Taketo Takahashi)
 
1984年、千葉県生まれ
東京大学工学部在学中にビジネスサークルやWEBサイト向けの映像制作会社を設立。
2007年の卒業後はアクセンチュア株式会社にて戦略コンサルタントとして勤務。
社内初となる成果報酬型のプロジェクトチーム4名に選抜され、社内最大のプロジェクトとなることに貢献した。
2008年にコミュニティを付加した新しい賃貸住宅「ソーシャルアパートメント」を企画・運営する株式会社グローバルエージェンツに取締役として入社。会社を黒字化し、成長軌道に乗せる。
2012年8月よりグーグル株式会社にて勤務。
また家業である調剤薬局の経営にも関与している。
 
得意領域は、経営企画、コストマネジメント全般、業務プロセス改革(含むシステム導入)、ビックデータ解析、オンライン広告、システム開発
得意業種は、小売・流通(特にドラッグストア、薬局)、IT、不動産、教育
 

 

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